近藤ようこの「兄帰る」を読んだ。
タイトルに反して、兄は帰って来ないのだ。なんてこったい!
結婚式の直前に花嫁の前から失踪した功一が、3年後物言わぬ人として帰ってきた。
捨てられた理由が判らず、怒りをぶつける先がないまま3年間も引きずっていたフィアンセの真樹子は、その知らせを受けて失踪中の彼の足跡をたどる。
失踪中の彼は転々と居場所を変えておりそこでは「ぼーっとした、のんきないい人」だと言う。
彼女が付き合っていた時は、真面目で働き者の物静かな男だったのに。
私を捨ててまで何がしたかったの?
行方不明って、死別よりも辛いかも知れない。
どうして、私を捨てたのか。それを聞くまでは彼女はきっと自分に自信なんて持てない。誰かの一番になれなかったことの悲しみは、ずっと彼女の笑顔に影を落とす。
一方、功一の母や妹、弟は婚真樹子とは別の理由で功一の失踪の理由を探している。
彼らは、功一が家族のために夢を諦めて大学中退し地元で就職したことをずっと申し訳ないと思っていたのだ。
ありがとう、お兄ちゃん。かわいそうな、お兄ちゃん。
お兄ちゃん、真樹子さんと結婚してやっと人並みの幸せが手に入るね。
功一は、苦労はしたけど自分が不幸だとは思っていないのに、みんなは自分をかわいそうと言う。それが苦しかったのかも知れない。
何もかも投げ出して、でもやっぱり戻ろうと思っていた事を知り、みんなの心はやっと救われたのだ。
だらだらとあらすじを書いてしまったけど、途中から号泣である。
両親の、とくに母親の功一への思いが逆に功一をかわいそうな子にしてしまったのかも知れない。無自覚だったとは言え、彼が失踪してしまったのはやはり母親の一言がきっかけであろう。
だけどね、このお母さんの立場もよく分かる。だって、旦那が借金残して失踪して息子が大学を辞めて大黒柱として働いてくれたら、そりゃ「ごめんね、お兄ちゃん」って言うよね。それが彼を追い詰めてたなんて!人生ってなんて難しいんだ!!!
この物語のすごいところは、主人公である功一が故人ゆえにみな誰かの回想の中にしかいないところだ。
それぞれのフィルターを通してみた功一はたしかにいつもちょっと悲しそうだ。
失踪して、忘れていた夢を思い出して、さあ家に帰ろうと思ったときの事故だった。
よかった。功一は帰ってくるつもりだったのだ。
それでどれだけみんなの気持ちは救われたか。
冒頭で、「タイトルに反して兄は帰ってこない」と書いたが、帰ってこなかったけど帰ってくる気持ちになっていたから、ほぼ帰るでよい事に気がついた。
ううう、泣きすぎたので顔が洗いたい。
失踪した男は何を想い、何を背負っていたのか…。
婚約者と家族たちは、数少ない遺品を頼り、失踪時の足跡をたどっていく。
そして、たどり着いた真実とはーーーー。
「あなたにとって私は…、一番の女でしたか」?
女として男として、家族として…、人の心の機微を丁寧に描き抜いた名作が、新装復刊!
次に読みたい本
全く同じタイトルの本、どうやら演劇?らしい。

