「村山 由佳」の「PRIZE―プライズ―」を読んだ。
出版業界、想像していたよりずっと修羅の国であった。
2026年本屋大賞3位の本作。帯には「この本出版していいんですか!?」という書店員さんのコメントが載っていたのだが、読んで納得。これは確かに言いたくなる。出版社、作家、編集者、文学賞、選考、営業、書店員。普段こちらが「本」として受け取っているものの裏側で、こんなにも多くの人間の欲望と執念と疲労がうごめいているのかと思うと、もう本屋の棚が少し違って見えてくる。
それにしても「PRIZE―プライズ―」、あまりにも出版業界の内部をさらけ出しているので、読んでいるこちらが「これ書いちゃって大丈夫なやつ?」と心配になるレベルである。私はただの読者なのに、なぜか関係者各位に向かって小声で「大丈夫ですか」と言いたくなった。
物語の中心にいるのは、売れっ子作家の天羽カイン。自分にも他人にも厳しく、才能があり、プライドも高く、なかなか近寄りがたい人物である。そこに、ちひろという女性編集者が深く関わっていく。
作家と編集者の関係というのは、もちろん作品をより良くするためのものなのだろうが、この二人の場合、その距離がだんだん普通ではなくなっていく。二人の蜜月とも言える時期に生み出された作品で、カインはようやく直木賞を獲れるかもしれない、というところまで行く。けれど、その異様な近さが、やがてすべてを壊してしまう。
「私、リミッター外していいですか」
そう言ったちひろは、カインの作品をより良くするために、仕事の境界線を大きく飛び越えていく。最初は熱意に見える。献身にも見える。編集者としての覚悟にも見える。でも、だんだん「あれ、これはどこまでが仕事なんだ?」となってくる。
かなり早い段階で周囲は止めているのだが、本人だけが止まれない。
怖いのは、周りから「距離感がおかしい」と再三注意されても、ちひろが「みんな私と先生の関係に嫉妬しているだけ」と突っ走ってしまうところだ。
読者であるこちらも、ずっとちひろの視点に伴走しているので、彼女が少しずつ狂気の側へ歩いていくのを、どこかで一緒に見てしまっている。
だからこそ、精神科で処方された薬を飲んだあと、霧が晴れたように頭がクリアになる場面が怖かった。え、そんな薬ひとつで戻れるの?と。こちらはもう、ちひろと一緒にかなり奥の方まで入り込んでしまっていたのに、本人だけが急に正気の場所へ戻ってしまう。その取り残される感じが、かなりぞわっとした。
「PRIZE―プライズ―」は、出版業界のお仕事小説としてもかなり面白い。直木賞のこと、作家と編集者のやり取り、出版社の内部、書店員の熱量。めったに知ることのできない世界が細かく描かれていて、そこだけでも読み応えがある。
ただ、よくあるお仕事小説のように「いろんな仕事があるなー、みんな自分の持ち場でがんばってんなー」と前向きな気持ちになるタイプではない。この本に限っては、ひたすら「出版業界、恐し!」である。もちろん面白い。面白いのだが、明るく爽やかに明日から私も頑張ろう、とはならない。むしろ、作家も編集者も命を削りすぎでは、と思う。
そんな中で、なにげに「クソ生意気な新人作家」の存在がちょっと救いだった。空気を読まない若さというか、図太さというか、湿度の高い人間関係の中に急に窓を開けるような感じがあって、私はけっこう好きだった。あの人、絶対めんどくさいけど。
「PRIZE―プライズ―」は、本を読む側からは見えない場所で、誰かがどれだけ本気で本に取り憑かれているかを見せつけてくる小説だった。怖い。でも、面白い。出版業界、やっぱり恐し。だけど、その恐ろしさの先に本が生まれているのだと思うと、ちょっと拝みたくもなる。
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★2026年本屋大賞第3位!
★ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2025 小説部門 第1位!
「どうしても、直木賞が欲しい」
賞(prize)という栄誉を獰猛に追い求める作家・天羽カインの破壊的な情熱が迸る衝撃作!
あらすじ
天羽カインは憤怒の炎に燃えていた。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝いた。それなのに、直木賞が獲れない。文壇から正当に評価されない。私の、何が駄目なの?
……何としてでも認めさせてやる。全身全霊を注ぎ込んで、絶対に。
次に読みたい本
全然関係ないけど、本日こちら予約しました。左端、明らかに諸星大二郎版でしょ!
いいわぁこういうの。

