iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に忘れっぽい私の読書録。最近はもっぱらAudibleで聞く読書

『雪夜の告白』美しすぎる母親は呪いである

近藤ようこの「雪夜の告白」を読んだ。

 

先日、旅先の古本屋で見つけて連れてきたうちの一冊である。

 

美しい母を持つ娘は、それだけで呪われることがある。

「雪夜の告白」は、美醜についての物語であり、母と娘、娘と父の関係についての物語でもある。

 

近藤ようこの描く女性たちは、いつも幸せと縁遠い。幸せになりたいと願っているのに、その手前で自分から足を止めてしまう。まるで誰かに言われる前から自分で自分を罰しているようなのだ。

 

主人公の雪夜は、美しい映画女優の母と比べて、自分は醜いと思い込んで育った。母は未婚の母として雪夜を産み、最後まで父親が誰なのかを明かさなかった。

 

母の死後、雪夜はまるで母親そのものになるように整形をする。けれど、それで救われるわけではない。元の自分の顔を愛せず、整形した自分の顔も愛せない。顔を変えたのに、心だけが取り残されている。

 

名前を隠し、小さな会社で働く雪夜は、幸せになることを自分に許していない。そんな彼女がある日、自分とよく似た大物政治家の存在を知る。「あの人が私の父親かもしれない」。そう思い込んだ雪夜は、その政治家の家に家政婦として入り込む。

 

何がしたかったのだろうか。

娘と名乗ってでたかったのか。母を捨てたことを責めたかったのか。それとも、自分が生まれてきたことを誰かに認めてほしかったのか。

 

けれど雪夜は、名乗り合うこともなく、父親に信頼されたにもかかわらず、そこからも逃げ出してしまう。

 

なぜ彼女は、こんなにも人を愛することができないのだろうか。いや、愛せないのではなく、愛されることが怖いのかもしれない。母に許してほしい。父にも許してほしい。そう思い続けていた雪夜が、生前の母の言葉を伝え聞き、涙を流す場面がとてもよかった。母もまた、雪夜にできれば許してほしいと思っていたのだ。

 

「雪夜の告白」は、劇的な和解の物語ではない。親子だから分かり合える、という甘い話でもない。むしろ、雪夜の母親は彼女を慈しみ育てたように思う。だからこそ言い逃れができず雪夜の傷が深くなる。優しすぎるからこそ、許せないことが増えていく。その痛みを、近藤ようこはとても静かに描く。

 

母の思いを知ったあと少しずつだが、雪夜は普通の幸せを追い求めるようになる。大げさな幸福ではない。誰かとごはんを食べるとか、友達をつくるとか。そういう小さなことだ。

 

元の自分の顔を認めてあげることもできず、整形した自分の顔を愛することもできず、苦しみ抜いた雪夜だからこそ、次は幸せになってほしいと思った。

美しくさえあれば幸せになれるわけではない事を知った彼女はやがて幸せになるだろう。

雪夜の告白

次に読みたい本

こちら、子供の時に肝を思いっきり冷やしきった一冊。

美しい女優の母、というところまでは一緒なのだが、こちらの母はマジ鬼畜なのだ。

 

洗礼(1) (ビッグコミックススペシャル)