辻村深月の「朝が来る」を読んだ。
出だしから心をつかまれる。静かなのに、胸の内にざわざわと波紋が広がっていくような物語だ。「朝が来る」は、ミステリーのように緻密な構成を持ちながら、圧倒的に人間ドラマである。
物語の軸になるのは、子どもを授かれなかった夫婦と、彼らのもとに子どもを託したひとりの少女。この少女が、まるで坂道を転がり落ちるかのように、望まない方向へと流されていく様があまりにリアルで、ページをめくる手が止まらなかった。読んでいて何度も「自分だったら引き返せるのか」と考える。
辻村深月は、登場人物の心の襞を描くのが本当にうまい。善悪では割り切れない感情、言葉にならない違和感、どうしても伝わらない想い。それらを丁寧に、そして誠実に描いていく。「朝が来る」という作品は、ただ“感動的”な話ではない。読者に問いを投げかけ、考えさせる物語だ。
たとえば「普通の子ども」ってなんだろう?作中でも繰り返し出てくるこの問いに、はっきりとした答えはない。ただ、私たちの中にある無意識の「普通」の定義が、どれほど人を傷つけ、追い詰めるものかということが、読み進めるほどに浮き彫りになっていく。
こちら側とあちら側。ほんの少しの選択、ほんの少しの運命のいたずらで、立場は簡単に入れ替わる。けれど一度線を越えてしまえば、もう戻れない。その事実が、ひたひたと迫ってくるような描写に、胸が締めつけられた。
奔放に生きることができなかった少女。それがどれほど苦しく、孤独なことだったのか。彼女の語りは、静かで淡々としているのに、心を深くえぐってくる。
派手な展開はないけれど、ラストは深く胸に響いた。一筋の光が差すような終わり方でタイトル通り「朝」が訪れたのだと思いたい。
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長く辛い不妊治療の末、栗原清和・佐都子夫婦は、民間団体の仲介で男の子を授かる。朝斗と名づけた我が子はやがて幼稚園に通うまでに成長し、家族は平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、夫妻のもとに電話が。それは、息子となった朝斗を「返してほしい」というものだった――。
自分たちの子供を産めずに、特別養子縁組という手段を選んだ夫婦。
中学生で妊娠し、断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母。
それぞれの葛藤、人生を丹念に描いた、胸に迫る長編。河瀨直美監督も推薦!
「このラストシーンはとてつもなく強いリアリティがある。」(解説より)

