香坂 鮪 の「どうせそろそろ死ぬんだし」を読んだ。
いやー面白かった!このミス大賞、ということでみんな期待値が高いのか、結構レビューでは辛辣なコメントもあったけど、私は大いに満足。
視点がくるくる変わる構成は、一見稚拙に見えるかもしれないが、読んでみればそれが逆に仕掛けの一部として機能している。語り手が変わることで読者の視点も揺さぶられ、「え、そっち!?」と何度もひっくり返される。これぞミステリの醍醐味。
物語の視点を故意に二転三転させているところは、稚拙というよりトリッキーなんじゃないかしら。
ミステリーなのでネタバレを避けるけど、語り手が切り替わることで大いにびっくりすることもできるし、どんでん返し的な仕掛けも生きてくる。
しかも、七隈探偵の語りパートの時はユーモラスで軽妙な感じ、薬院君の語りパートでは辛気臭く、そのブレもなんだか不安定感を出していてよい。
交通の便の悪い館に集められた人々は、なんと皆余命宣告をうけた人ばかり。
そこに招待された探偵とその助手。
・・・その夜一人の男が死んでしまう。
余命宣告をされているのだから自然死の可能性も高い。だが、このシュチュエーションで殺人でないことなどあるだろうか?(ミステリのお約束という意味で)
最初から最後まで罠ばかりで、
「おじいちゃんじゃなくておばあちゃんかーい!」とか(読めばわかる)
「お前も病気なんかーい!」とトリックと関係あろうが無かろうがとにかく読者を騙す気まんまん。そのサービス精神には脱帽した。
私はケレン味たっぷりの探偵の語りパートが好きなので、最後はもう少し明るい読後感が欲しかったかな、というのが正直な感想。だがそれすらも、この作品の持つ死生観のリアルさを際立たせているのかもしれない。
ミステリーの定番「館もの」はやり尽くされた感があるが、「どうせそろそろ死ぬんだし」では余命宣告を受けた人々を殺す意味という新たな切り口が提示されていて、ファイダニット(Why-dunit)としての構造も新しいよね!
こういう更新があるからミステリって面白いよなーと思う。
ちなみに館は「ちょっと交通の便が悪い」だけで、雪も降ってなければ吊り橋も落ちていないのである。「警察呼んだらいいやん」とツッコミたくなる事必至である。
でも、大丈夫。これにも答えはある!安心して翻弄されてほしい。
ところで登場人物の名前がみな福岡市営地下鉄七隈線の駅名なのも地元民のみに通じるおもしろさだ。作者は福岡の人かな?
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2025年第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作
余命宣告された人々が集まる山荘で起きた、ある一人の突然死。
自然死か殺人か――。超新星の二度読み必至「館」ミステリー!「最初から最後までずっと罠ばかり。最大の罠は作風そのものかも」麻耶雄嵩(作家)
(あらすじ)
探偵業を営む七隈は、余命宣告された人々が集う交流会のゲストとして、助手の律と共に山奥の別荘に招かれた。
二人は交流会の参加者と食事をし、親交を深める。しかし翌朝、参加者の一人が不審な死を遂げる。
自然死か殺人か。殺人であれば、余命わずかな人間をなぜわざわざ殺したのか。七隈たちは死因の調査を始め――。
やがて明かされる驚愕の真相とは?
次に読みたい本
ほぼ同じタイトルの新書。こちらは、おもしろドクター和田の言いたい放題漫談(失礼)
