アガサ・クリスティの「スリーピング・マーダー」を読んだ。
記憶の中に埋もれた殺人事件。
それが、ひょんなきっかけで再び姿を現すなんてことが本当にあるのか? 「スリーピング・マーダー」は、そんな“眠っていた”事件を掘り起こす物語である。
今回の作品は、クリスティ作品の中でもやや異色。
後半での大どんでん返しを期待していた身としては、犯人の正体が早い段階で透けて見えてしまったのが少し残念だった。
怪しい人物が最初からうっすら怪しい。逆に言えば、それだけプロットが正攻法で練られているということでもある。
主人公は新婚の若妻・グエンダ。海辺の町で一目惚れした家を購入するのだが、その家こそが、彼女が幼少期のわずかな時間を過ごした場所だった。断片的にしか思い出せない記憶。だがその記憶の中には、どうやら「殺人現場」が混じっていたらしい。
扉の位置や階段の場所が移されていたことが、妙な既視感として彼女を悩ませる。その違和感が、やがてひとつの真実へと繋がっていく。もしその家に、誰にも気づかれないまま“眠っていた”被害者がいたとしたら……?
そんな二人の前に現れるのが、安定の名探偵・ミス・マープル。
グエンダ夫妻の手助けをしながら、記憶の中の事件に光を当て、静かに、村中の情報を集めてしまう。
事件の背後にある人間関係や心理描写もさすがの筆致で、最後にマープルが被害者の名誉を回復する場面にはしみじみとした感がある。
記憶を手がかりに事件を解き明かすという点では、「五匹の子豚」も近い構成の名作だが、「スリーピング・マーダー」はより感情的で、やっぱり犯人が掴まても虚しいよね~
若妻グエンダはヴィクトリア朝風の家で新生活を始めた。だが、奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。ある日、彼女は観劇中、芝居の終幕近くの台詞を聞いて突如失神した。彼女は家の中で殺人が行なわれた記憶をふいに思い出したというが……ミス・マープルが回想の中の殺人に挑む。
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