塩田 武士の「踊りつかれて」を読んだ。
黒一色の表紙に「踊りつかれて」の文字だけが浮かぶデザイン。それが、逆に目を引く。中身の重さを予感させるような静かな迫力がある。
本作は2025年上半期の直木賞候補作。惜しくも受賞は逃したが、そのテーマ性と構成の巧さは堂々たるものだった。社会派小説としての骨太さと、エンタメとしての読みやすさが共存している。
「踊りつかれて」の中心にあるのは、SNS時代の「言葉の暴力」だ。かつて人気を博したお笑い芸人・天童ショージは、SNSでの誹謗中傷の末に命を絶った。その少し前、伝説の歌姫・奥田美月も週刊誌による事実無根の報道を受け、表舞台から姿を消していた。彼らを追い詰めたのは誰か?その問いに怒りとともに立ち上がる男がいた。名を「枯葉」という。
枯葉は、SNS上で誹謗中傷を繰り返した人々の個人情報を暴露し、復讐を宣言する。その言動は危険に見えるが、物語は彼を単なる「加害者」としては描かない。むしろ、なぜ彼がその道を選んだのか、その背景に光を当てていく。
語り手となるのは、若き女性弁護士・久代奏。
東大を優秀な成績で卒業しながら、弁護士という仕事に自信を持てずにいた彼女が、枯葉の弁護を引き受けることで自らの限界と向き合い始める。
かなでの視点で描かれる「踊りつかれて」は、復讐劇でありながら、非常に人間的な物語でもある。枯葉の中にある「他人の才能を守りたい」という思い。かなでの「自分の力で誰かを救いたい」という葛藤。そんな二人の交差が、読み手の心に静かに波紋を広げる。
芸能人に対する無責任な言葉、クリックを稼ぐための歪んだ報道、匿名の陰に隠れた加害者たち——それらが積み重なる現代において、「踊りつかれて」は非常にリアルで切実な物語だ。
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誰かが死ななきゃ分かんないの?
首相暗殺テロが相次いだあの頃、インターネット上にももう一つの爆弾が落とされていた。ブログに突如書き込まれた【宣戦布告】。そこでは、SNSで誹謗中傷をくり返す人々の名前や年齢、住所、職場、学校……あらゆる個人情報が晒された。
ひっそりと、音を立てずに爆発したその爆弾は時を経るごとに威力を増し、やがて83人の人生を次々と壊していった。
言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷にあったお笑い芸人・天童ショージは自ら死を選んだ。ほんの少し時を遡れば、伝説の歌姫・奥田美月は週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。
彼らを追いつめたもの、それは――。
次に読みたい本
「踊りつかれて」でも言っていたが、誹謗中傷を行う人達はスマホを置けば普通の良識のある人たちであることが多い。
そして、自分指先が入力したほんの小さな悪意について「炎上するなんて思っていない」人たちだ。
面と向かって言えない言葉は、SNS上でも言ってはいけない。そんな簡単なことがわかっていない、そんな時代。
後数十年したら、テクノロジーが追いついて、自分の意見は発信できるけど誹謗中傷は書き込めないようになるんじゃないかな?
どうやって区別するかはわかんない。

