津村 記久子の「つまらない住宅地のすべての家 」を読んだ。
この人の本、面白い!
ミステリーのイメージのない人だけどこの作品サスペンス要素もふんだんにあってよかった。
タイトル見ただけではまさかのっけから「女性の逃亡犯」がでてくるとは思わないでしょう。
どうやらNHKの連続ドラマになっているみたいで(全然知らなかったけど)主役の丸川明は井ノ原快彦が演じているらしい。
ただ、一人主役がいるというよりは、つまらない住宅地の路地に住む人達それぞれの姿が並行して語られている。
ある日、住んでいる本人たちですら「退屈でつまらない」と思っている町に「刑務所から囚人が脱走した、しかも女性の」というニュースが飛び込んでくる。
それを知ったたまたま当番で回ってきた自治会長の丸山が「住民で交代で見張りをしよう」と言い出す。
いろんな温度差のある住民たちが当番で夜警をすることになるのだが、そこには現状に怒りをもっていて「子供を誘拐してやろう」と企てている若者や、ネグレクトを受けている姉妹の小学生や、子供の発達に悩んで座敷牢を作ろうとしている親など、なかなか剣呑なメンバーが、それぞれ表面上の平穏を持ち寄ってやってくる。
最後には実際に逃亡犯の日置昭子がやってきてみんなで確保?するのだが、それも確保というよりは、なんだか残念ながらこの路地に入ってきたところを見つけてしまったので、とりあえず明日自首していただくということで、解散。みたいなノリ。
実際に起きていることの割には皆、なんだかのんきでひょうひょうとしていてどこかユーモラス。
唯一、子供の誘拐を企てている男も、協力していたほうがもし犯罪を行った時に住民から通報されたりするリスクが減るだろうという気持ちだったのに、なんだか煮込み料理をもらったり、お礼に高いところの枝を切ってあげたりしているうちに、怒りがすっと抜けるのである。
読んでいて、いわゆる無敵の人の思考をなぞるようで恐ろしかった。
怒りが収まった原因は、彼の推しアニメのポスターを隣のおばあさんに見られて、カッとなったけれど、おばあさんがそのキャラクターの着ている着物を素敵ね、と褒めたから。
着物がわかっていそうなおばあさんから褒められるということはそのキャラクターは素晴らしい、そんなキャラクターに恥じぬ人間に俺はなりたい。とビビビ、ってきちゃうのだ。
彼の社会への怒りとか不公平感が、他人からみたらほんの些細なことで解消するって、やっぱり推しのある生活ってすごいかも。ちなみに小説ではもうちょっと語彙力のある感じでした。私語訳になっているので、気になる方はぜひご一読を。
特別なヒーローは出てこないし、悪役だって本当にどこにでもいるタイプの女性。
ただ、この事件のおかげで、つまらない住宅地の人々たちには横のつながりができて、ネグレクトの姉妹にも明るい兆しがみえたし、息子の発達に悩んでいた両親も息子に友だちがいることを知って、座敷牢みたいな偏った解決をするのをやめた。
一気に、住民が一丸となってという話ではないけれど、話をしたことがある人が増えるとそれだけつながりは強くなるみたい。
なくてもいいけど合ったほうがいい近所付き合い、ちょっとだけポジティブに周りを見られるようになるかも。
あらすじにも「ささやかな傑作」とあるが本当に良い表現だわー
とある住宅地に、刑務所を脱獄した女性受刑者がこちらに向かっているというニュースが飛びこんでくる。路地をはさむ10軒の家の住人たちは、用心のため夜間に交代で見張りを始めることに。事件をきっかけに見えてくるそれぞれの家庭の事情と秘密。だが、新たなご近所づき合いは知らず知らず影響を与え、彼らの行動を変えていく。生きづらい世の中に希望を灯す、ささやかな傑作。
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