青山美智子の「人魚が逃げた」を読んだ。
この人の作品は根っこのところがハートウォーミングなので信頼している。
今回の話は、アンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフにした「銀座」のおとぎ話だ。
銀座に人魚を探す王子が現れた。SNSは一気にその話題でもちきりになる。
王子と言葉を交わした人たちの連作短編集。
少しずつ話がつながっているので、話が進めば進むほど伏線が気持ちよく回収されてゆく。
最後のタネ明かしの部分が特に良かったな。
「ああそういうことか」と現実に着地させるように思わせておいてからファンタジーに戻すあたり、流石だわ。
どの話も良かったけど、私と同年代の母親が、独立する娘の旅立ちを素直に祝えないエピソードが自分重なって心に残った。
海外でメイクアーティストになるという娘に「日本でやればいいのに」「仕事や海外を甘く考えている」と心から応援できていなかった彼女の独白は、そのまま私の言いたいことと同じだ。
ま、うちは海外ではなく東京だけど。
娘は甘くみているわけじゃなくて、どんな困難があろうともそれでも夢を追いかけたい、と思っているのかもしれない。
恐れを見せないように明るく振る舞っているだけかもしれない。
彼女の娘は王子に向かってこういうのだ。
「人間の住む陸の世界に行ってみたいという夢を叶えるために自分で決断したんだから、人魚姫は後悔していないと思うし、かわいそうじゃない」
そっか。私が応援しないで誰がするのか。頑張れ、娘。
夢を叶えるために旅立つものに祝福あれ。
<STORY>
ある3月の週末、SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りした。どうやら「王子」と名乗る謎の青年が銀座の街をさまよい歩き、「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語っているらしい。彼の不可解な言動に、人々はだんだん興味を持ち始め――。
そしてその「人魚騒動」の裏では、5人の男女が「人生の節目」を迎えていた。12歳年上の女性と交際中の元タレントの会社員、娘と買い物中の主婦、絵の蒐集にのめり込みすぎるあまり妻に離婚されたコレクター、文学賞の選考結果を待つ作家、高級クラブでママとして働くホステス。
銀座を訪れた5人を待ち受ける意外な運命とは。
そして「王子」は人魚と再会できるのか。
そもそも人魚はいるのか、いないのか……。
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なつかしい、独特なセンス。