いやー、やっぱり本屋大賞に選ばれる作品ははずれなしだなぁ。
あんまり、というかほぼ恋愛小説を読めないのだがこれは流石に「二度読み必至」とうたうだけあって、短編小説に見せかけてなにげに伏線が張り巡らされているミステリーのような物語だった。
2021年本屋大賞2位『お探し物は図書室まで』の著者、新境地にして勝負作! メルボルンの若手画家が描いた1枚の「絵画(エスキース)」。日本へ渡って30数年、その絵画は「ふたり」の間に奇跡を紡いでいく――。2度読み必至! 仕掛けに満ちた傑作連作短篇。 ●プロローグ ●一章 金魚とカワセミ メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちる。彼らは「期間限定の恋人」として付き合い始めるが……。 ●二章 東京タワーとアーツ・センター 30歳の額職人・空知は、淡々と仕事をこなす毎日に迷いを感じていた。そんなとき、「エスキース」というタイトルの絵画に出会い……。 ●三章 トマトジュースとバタフライピー 漫画家タカシマの、かつてのアシスタント・砂川が、「ウルトラ・マンガ大賞」を受賞した。雑誌の対談企画のため、二人は久しぶりに顔を合わせるが……。 ●四章 赤鬼と青鬼 パニック障害が発症し休暇をとることになった51歳の茜。そんなとき、元恋人の蒼から連絡がきて……。 ●エピローグ 水彩画の大家であるジャック・ジャクソンの元に、20代の頃に描き、手放したある絵画が戻ってきて……。
話は毎回変わる主人公の一人語りで構成されているのだけど、最初に登場したブーとレイのカップルが実は常に関わってくる、時にはっきりときに微かに。
語られる人の目線によって二人の印象は激しく異なるので、一冊読み終わるまでこのカップルが軸の物語ってはっきりわからない。
後から考えるに作者による印象操作!なんだけど、最終話で全てがするするとか回収されて、繋がっていく様は美しい。
ネタバレになるので言えないのだが、というかネタバレという言葉が出でくる恋愛小説って少ないと思うけど、約30年間の女性の生き様を思うととても感慨深い。
特に最終話で、独り身でパニック障害になり、職場を休職することになり…というくだりは、そんじょそこらの怪談よりよほど怖い。
でもね、最後は幸せになるよ!伏線が回収されて、二人が収まるところに収まって、ハッピーな気持ちになる。いや、どちらかというと「なんか助かった!」みたいな気持ちになる。
なんか、タイトルにも二人の名前にも色々な仕掛けがあるのでお楽しみに!という感じ。
実はこの本もAudibleで聞いたのだ。
月1500円で読みホーダイなんてなんて素晴らしい仕組みなんだ!とどこかの回し者のように色んな人にいっているけど、結構「本は紙じゃなきゃ派」は根強く多い。
確かに、電子書籍に向いていない本はたくさんある。ましては、視覚情報は表紙のサムネイルしかないAudibleには、結構向いていない本がある。
たとえば、漢字のダジャレなんて全くわからん。
まあ、そこまで需要はないけど。
なにかしながら本が読めるなんてサイコー、なんだけどこういうもう1回さらっと読み返したいときが、壊滅的にだめな仕組みである。
何かを得れば何かを失うのだよ。
とにかく、本屋大賞はやっぱりハズレがないのね、と思わされた一冊。