横溝正史の「呪いの塔」を読んだ。
あんまり有名ではないけれど、傑作だと思う。
軽井沢高原の朝もやの中にうっそりとそびえるバベルの塔。この塔の外側には放射線状に伸びた七つの階段がある。今、怪奇小説で有名な作家大江黒潮とその仲間たちが集い、この塔を利用して仮想犯罪劇を演じていた。殺される役は何と黒潮自身。やがて劇も終ろうとする時突然、あたりに響きわたる凄じい悲鳴が聞こえた。黒潮の声である。驚いた人々が迷路のような階段を登り、展望台に辿り着いた時、そこには黒潮の死体が――。綿密な構成で練り上げた、横溝正史の傑作長編推理!
読み終わってから見るとこの表紙の女性は、殺される大江黒潮の妻、折江なのだろう。
猟奇的な内容の小説を書く大江黒潮を(表紙のイメージから)てっきり筒井康隆っぽい人?と思っていたが、いろいろ調べたらこっちのオマージュだったことが判明。
ほら、こっちにもちょっとイッちゃってる小説が出てくるじゃない?大江春泥という名前で。
他にも、最終的な探偵役である「白井三郎」も江戸川乱歩の本名「平井太郎」 からきているとのことで、実際このころ横溝先生は編集者と作家の二束のわらじをはいていたじだいらしいく、まさしく、作中の設定と同じ。
横溝先生と江戸川乱歩の関係性をもパロディとしたようなこの作品、なかなかどういて傑作なの。
犯人がわからない、というより、全員動機がある登場人物たちが、軽井沢を舞台にそれこそ「暇を持て余したセレブ達の爛れた恋愛遊戯」を行っているわけですよ。
地元民は苦々しく見ていたわけだが、これは時代が令和になろうが、
誰でも苦々しく思いそう。たぶん文春砲がさく裂する。知らんけど。
とにかく、恋愛をこじらせた大人はたちが悪い。
意外な犯人というより、死者(と記述者)だけが容疑者から外れていき、最後まで誰が犯人かわからず、ミステリとしてはかなり傑作なのではないかと思う。
どんでん返しというより、こっちか!という驚き。
この話何となく、戦前のものすごい美人が出てくる映画のイメージで脳内再生してた。
当時の軽井沢の雰囲気(普通に車夫がいる時代)も味わえる作品。
横溝先生ファンだけではなく、江戸川乱歩ファンにもおすすめ
(ちなみに今kindleunlimitedでよめちゃう!よ、太っ腹!)