iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に読書録。読み終えた本がこのまま砂のように忘却の彼方に忘れ去られるのが申し訳ないので、書き留める。要は忘れっぽい読者の読書日記。

「わたしは孤独な星のように」本人朗読で光る作品

池澤春菜の「わたしは孤独な星のように」を読んだ。

 

前から、「池澤夏樹の娘」で「SFクラブの会長」で「声優」となんだか才気の塊みたいな人やなと思っていたが、実際にこの人が書いた本を読むのは初めて。

 

アマゾンでもタイトルリストがでていなかったのでここに書いておく。

 

わたしは孤独な星のように タイトル

糸は赤い、 糸は白い
祖母の揺籠
あるいは脂肪でいっぱいの宇宙
いつか土漠に雨の降る
Yours is the Earth and everything that's in it
宇宙の中心でIを叫んだワタシ
わたしは孤独な星のように

 

 

感想

どれも面白かったが、中でもギャグ漫画のような「もえたま」ちゃんの2つの話

「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」「宇宙の中心でIを叫んだワタシ」を紹介する。

 

あるいは脂肪で・・・の方は、コロナ自粛期間中、リモートばかりで太っちゃったもえたまちゃんが「ダイエットを頑張るツイッターアカウント」をつくって本気を出すのだが、1グラムも痩せない。

 

理論上は絶対痩せるはずなのに!

緑の野菜食べまくって、プロトレーナー雇って、とうとう海外製の怪しい薬も取り寄せたのに。

水断食をやって1グラムも痩せないなんて質量保存の法則の拡大適用過ぎない??

なんてつぶやいていたら「絶対痩せないアカ」としてバズってしまう。

 

本当に公開ライブ配信で毎日体重計に乗る生活をさらしてダイエットしても痩せないので、とうとう海外でもバズり、アメリカの大手企業からその痩せないカラダを調べさせてほしいというオファーまで来る。

 

最終的には概念としての「脂肪ちゃん」が見えるようになり、もえたまのダイエットで人類はちょうど「特異点」を迎えたやら太りも痩せもしなくなった、というちっとも意味の解らない説明をされる。

 

特異点特異点を」という思想のもと、体内にブラックホールを作るべくとうとう宇宙に飛ばされてしまうもえたま。

 

よくわからないが、美少女戦士とかが良く連れている喋れるぬいぐるみみたいなのが、「黄色い脂肪の塊」だと思ってもらえれば間違いない。

 

「宇宙の中心でIを叫んだワタシ」はこのもえたまちゃんの続編。

宇宙に飛ばされた後どうなったかと心配していたが、地球に帰ってきて脂肪ちゃんとたのしく暮らしていた。

そんなある日、とうとう地球は宇宙人とファーストコンタクトを果たす。

 

ところが、この宇宙人全然話が通じない。

通じない、というよりは完全に意図せぬ形にしか通じない。

 

宇宙人と歓迎式で地球代表が名乗って握手をしようとしたら、宇宙人が激怒したのだ。

よくよく確かめてみると地球代表者の名前の「音」が宇宙人に取ってはピーピーピーのピーと全部伏せ字にしないと行けないような下品な罵詈雑言に聞こえていたらしいことがわかる。

 

そこで急ぎ翻訳こんにゃく的なものを作り地球人の名前を宇宙語に訳してみると、もえたまちゃんの名前は「豆腐の角に頭ぶつけてしんじまえ」だったらしい。

改めて書くと、本当にナンノコッチャ、ってなるけど本を読んでいるときは勢いで読めちゃうのだ。不思議。

 

バカミスならぬとんでもSFのような話ばかりではない。

しっとりとした良い話もいくつか。きのことくらげの話が良かった。

 

Audibuleで聞く読書だったのだが、なんとナレータも池澤春菜本人で、さすが作品の理解が完璧でとても上手な読み上げだった。作品毎に読み方の雰囲気もかえていて、プロの仕業を感じた。

 

この本はAudibuleで聞いて大正解なんじゃないだろうか。

ちょっと百合っぽい要素が多くいのも魅力的。

 

 

遠い未来のスペースコロニーで、亡くなった叔母の弔いを巡る情景を描いた表題作のほか、商業媒体やウェブ媒体で発表した池澤春菜のSF短篇を集成。人間が異文化と接するときの情景や、未知なる動植物の生態をときにコミカルに、ときに抒情的に描き出す傑作集。

 

 

次に読みたい本

 

人間がきのこのように胞子を飛ばし意思疎通を図るようになる世界を描いた「糸は赤い、 糸は白い」思春期の少女たち特有の危なっかしさがきらめく作品。

大人になる前に好きなきのこのタネ付けをされるお話です。

きのこの絵本: ちいさな森のいのち (ハッピーオウル社のしぜんのほん)