全ての宝石の名前がついた短編集だった。
例えば「真珠」という短編はこうただ。
たぬき顔のおばさんに会いに行く男の話。
昔モテていたのよ、と言い張るおばさんはどこにもてる要素が見出せず、ただ歯だけは真珠のように美しかった。
なぜこんな状況が生まれたのか伏せられたまま、でも男の彼女に対する態度が度をこして不親切で、ハイテンションの女性と硬い態度を崩さない男性の謎すぎる会話に違和感を感じなから引き込まれていく。
後半に女性の態度が一変するあたり背筋がゾワゾワとする結末。
「ダイヤモンド」
雀の恩返し、と書くとほんわかした優しい話に感じるが最後はやっぱり恐ろしい話。
でも、助けた雀とお酒を飲み交わすシーンは微笑ましい。
「サファイア」「ガーネット」
人におねだりをすることなんて考えたこともなかった女の子が、初めてできた彼氏に20歳の誕生日におねだりした指輪。
彼氏は「やっとおねだりしてくれたね」と言喜びそれに応えるために彼女には内緒でとあるアルバイトをする。
そのせいなのか、彼は電車の事故でちょうど彼女に指輪を渡す誕生日の日に亡くなってしまう。
サファイアとガーネット、2つの短編はリンクしていて、彼女がやっと肩ひじを張らず付き合える人を見つけるまでと、その恋人の喪失から立ち直るまでの物語。
どうしても許せない彼を殺した犯人、でもそれは本当は事故かもしれず・・・
存在するかわからない犯人に強く恨みを抱く彼女。
こだわっていた気持ちを昇華するために書いた物語で彼女は小説家としてデビューする。
ずっと彼女が抱え込んでいた想いは、最後にはとても希望がもてる終わり方で幕を閉じる。
どのはなしも、決して明るいハッピーエンドではないけれど、というよりイヤミスよりといえばイヤミスよりなのだが、さすが湊かなえ、と思わせる短編集だった。
この人の本、結構読み終わった後ズーンと来ることが多いのでちょっと構えてしまうのだけど、やっぱり凄腕だなぁ。
あなたの「恩」は、一度も忘れたことがなかった――「二十歳の誕生日プレゼントには、指輪が欲しいな」。わたしは恋人に人生初のおねだりをした……(「サファイア」より)。林田万砂子(五十歳・主婦)は子ども用歯磨き粉こ「ムーンラビットイチゴ味」がいかに素晴らしいかを、私に得々と話始めたが……(「真珠」より)。人間の摩訶不思議で切ない出逢いと別れを、己の罪悪と愛と夢を描いた傑作短篇集。
次に読みたい本
宝石落ちてないかなー