谷川俊太郎とブレディみかこの「その世とこの世」を読んだ。
いまここの向こうの「その世」に目を凝らす詩人と,「この世」の地べたから世界を見つめるライターが,1年半にわたり詩と手紙を交わした.東京とブライトン,老いや介護,各々の暮らしを背景に,言葉のほとりで文字を探る.奥村門土(モンドくん)描きおろしイラストを加えての,三世代異種表現コラボレーション.
Audibleで聞いたので、奥村門土くんのイラストは味わえていないのが残念だが、ブレディみかこと谷川俊太郎の往復書簡を書籍化したもの。
タイトルは、この世とあの世、ではなく「その世」。
どちらでもない境目の名も無いそこに対して思いを馳せてみた二通目の手紙から取られている。
ブレディみかこが書いた手紙に対し、谷川俊太郎が詩で回答するのだが、ちょうどウクライナ侵攻が起こったころだったので、戦争の話やブレディさんの母の介護の話など、割と重たいテーマを、谷川さんがひょうひょうと返すのがおもしろい。
90歳を超えると、こんな芸当ができるようになるのだなぁ。
まあ、凡人は何歳になろうとこんなにおもしろくなれないのかもしれないが。
面白かったのは谷川さんが子どもたちに「ナマ谷川だ!」と言われた話。
確かに教科書に乗っている「谷川俊太郎」が現れたらそりゃ、ナマ谷川!と興奮すると思う(ブレディみかこも私もそう言うと返していた)
年齢を感じさせない軽妙な返しに安心したり、でも「最近試している電動車椅子」という言葉にちょっぴり寂しさを感じたり。
「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」で大ブレイクをした「ブレディみかこ」の本を私は初めて読んだ。
そのなかで、「いわば母への当てつけのように英国に」言った話や「彼の地で詩人に恋をして一緒に暮らした」話や、「恋が終わって本当に一文無しで帰国した」話などなかなか引き出しが多い人。福岡出身とのことで、それだけで親近感。
ちょっと認知症気味の母親が色んなところに小さな巾着袋を隠しており、中から様々なものが謎の組み合わせで発見されるというくだりでは、ブローチや印鑑などと一緒に雑に包まれた「何らかのお骨」やら「髪の毛」まででてきて恐怖におののく。
はてには自分の「へその緒」がでてくるのだが、自分の知っている誕生日と違う日付が書き込まれていたりして、残された家族を困惑させる。
重たいテーマの中にもおかしみが随所に散りばめられていて、これもわざと真面目くさった顔で言う一種の英国ジョークなのかしら。
無邪気ではなく有邪気な笑いが英国には確かにあるんだそうだ。
ほー、もう一度シャーロックを観かさなきゃ!
次に読みたい本
谷川俊太郎の「ぼく」
内容を簡単には書けないほどの重たいテーマを絵本にしている。
こんな絵本は見たことがない、として本作中に紹介されていた。
少年の自死を描いた絵本。