iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に読書録。読み終えた本がこのまま砂のように忘却の彼方に忘れ去られるのが申し訳ないので、書き留める。要は忘れっぽい読者の読書日記。

「ばにらさま」ただ幸せに生きたいだけの女性たち

山本文緒の「ばにらさま」を読んだ。

 

 

彼女の本を読むのは3冊目。
「恋愛中毒」と「プラナリア」は読んだ後、結構ぐっさりとメンタルに効いたので、今回もかなり及び腰で挑んだ。

 

ichi-z.com

 

 

本人目線だったり他人目線だったりするけれど、登場人物はみな少しずれた女性。

 

「ばにらさま」 

バニラアイスのように真っ白なでかわいい僕の恋人。
自分にこんなかわいい恋人ができるなんて、、、と最初は格差恋愛(向こうが上)のように語っておきながら、だんだんすがっているのは反対であることがわかり、立場が逆転していく。

生きていくために精一杯ずるく立ち回ろうとする彼女は、本音をブログに書いていて、そっくり彼氏に読まれてしまっている。読んでいる間中「嫌な女」だったばにらさまが、最後数行で愛おしくなる。

「わたしは大丈夫」

いやー全然大丈夫じゃないね、不倫の代償!

略奪して結婚した夫は前妻に養育費を月25万支払っているので、節約に節約を重ねて生きて行かねばならない。

明るくしっかりものに見えた彼女は、大きな代償をはらいながらギリギリの精神バランスで生きていたのだ。こわい。

 

「菓子苑」 

友達のような母娘、一見理想的だがこの二人の関係はすこし異常だ。

娘もまた、自分と同じように若くして妊娠と結婚。それでも一緒に暮らさなくて良いだけホッとしている母。なぜこのタイトルなのか、読み解けなかった。誰か教えてください。

 

「バヨリン心中」

余命が少なくなった老婆の過去の恋愛話は、ロマンティックだけでは終わらない。海を超えた大恋愛の物語。

恋をすることは自分が生きものであることを実感し、子どもを生むとことは自分が獣であること知っることだ。

全く恋愛に興味のない、恋に落ちるなんて迷惑な話だとうそぶいていた孫娘が最後にころっと陥落するところが面白い。

 

「20×20」

ひょっとして、作者の実話ベースかもしれない。

アルバイトの時給と作家の原稿料を比べていて面白い。

 

「子供おばさん」

終わり方に希望がある。

リリィというゴールデンレトリバーを負担付遺贈という形で亡き友に送られた主人公。

わたしは、おばさんになったけどまだまだ子どもだ。と感じる彼女が地に足を付けた生活を手に入れる話。

 

以上6篇、すべて生きるのが下手くそな女性たちを主人公にした物語。

 

何度もコケて、まるで赤身のまま生きているようなむき出しの痛さと切なさが同居していて、読んでよかったんだけどやっぱりグッサリ来た・・・

 

特に最初のばにらさまのラストが衝撃的すぎて、しばらく寝かせてしまった。

 

次に読みたい本

作者は2021年に膵臓がんで急逝されたが、最後まで書き続けた日記が出版されて話題になった。

絶対ないちゃうやつやん・・・