横溝正史の「雪割草」を読んだ。
久しぶりに、横溝正史のミステリ以外の作品を読んだ。
雪割草、美しい花である。
超ざっくりとしたあらすじは、諏訪の湖で育った美しい娘、有為子が育ての父の死を機に実父を探すために上京し、騙されて危うく売られそうになるところをたすけられて色々あって電撃婚するのだが、旦那がアーティスト気質の精神子どもだったため超絶苦労するけど、最後は良かったねで終わる話である。
出生の秘密のせいで嫁ぐ日の直前に破談になった有爲子は、長野県諏訪から単身上京する。戦時下に探偵小説を書くことを禁じられた横溝正史が新聞連載を続けた作品がよみがえる。著者唯一の大河家族小説!
感想としては「横溝先生サドですかな?」って。
「一難去ってまた一難」がループする話で、売られそうになるわ、逃げようとして車にひかれるわ、昏倒中に銀行印盗まれるわ、もう散々何である。
最終的には実父とその妻にも認められ「お義母様」との仲もよくなり、夫もやっと気を取り直して絵筆を持ち、坊っちゃんは可愛いし、幼なじみや義理の妹は結婚して大陸に渡る。希望しかない、的な終わり方であった。
その後の大陸に渡った人たちのご苦労とかは考えないのである。
好きなエピソードはとしては、幼なじみの「このみ」ちゃんの話。
実の親に売られ、置屋でも醜くて使い物にならぬといじめ抜かれたこのみ。(ここらへん100年も経たないのに子供の人権はとても向上していて良かった)
彼女は有爲子の母と、学校の先生の好意でなんとか学校を卒業し、お針子として手に職をつけしっかり生きていたのだが、大陸に渡った先生に「来てほしい」という手紙をもらって行く決意をするのである。
先生もこのみちゃんも、こちらにいるときには一言も愛も恋も匂わせていないのに。
ただ、先生はこのみちゃんに
「君は、麦になれ、ふまれればふまれるほど強くなる麦に」
という言葉を送って抱きしめている。じ~ん。
中島みゆきやん・・・
ミステリではないので、ネタもタネもトリックのない、どちらかというと昼ドラのような話だったのだが、主人公にこれでもかと襲いかかる不運に目が離せず一気読みだった。
特に戦争初期の市井の人たちの雰囲気はへーと思いながら読んた。
私たちはあの戦争の悲惨な結果というものだけ教育されて育っているので、戦争初期の希望に満ちて女性たちも闘志に燃えているイキイキとした描写に少しびっくりした。
しかしあらすじを見て少し腑に落ちた。「戦争中に探偵小説を書くことを禁じられた」横溝先生が書いた唯一の大河家族小説、とある。
そんなジャンルがあるかどうかは別として、ある程度検閲を意識した優等生的な描写だったのだな・・・
フィクションの世界までも型にはめようとする恐ろしさよ。
あらためて戦争反対、の思いを強くした。