下村敦史の「告白の余白」を読んだ。
高知で農家を手伝う北嶋英二の双子の兄が自殺した。「農地を祇園京福堂の清水京子に譲る」と書かれた遺書を持ち英二は京子を訪ねるが、彼を兄と間違い〝失踪した恋人〟との再会を喜ぶ姿に真実を伝えられない。ところが翌日、京子と職人の密会が発覚。京子は兄を愛していたのかそれとも――。ここは腹黒の街。美しき京女の正体を〝よそさん〟は暴けるか。
京都が舞台のミステリー。
ほとんど主人公の英二(双子の弟)のセリフまわしで物語が進行していくので、ラジオドラマみたいで読みやすかった。
ただ、脳内がこの優柔不断で優しい弟のセリフでいっぱいになるのでちょっとイラッとする。
そう、この主人公、なーんかピリッとせん!最後もハッピーエンドでもないし煮えきらない。
最後、信じることも嘘を暴くこともなく最後結局どうなったのかよくわらからない感じで終わってしまう。
いや、このよくわからない感じで終わらせることこそ「京都らしい心遣い」なのだろう。
スパッと解決がスタンダードな本格ミステリファンとかは少し物足りないかもしれない。ロジックを楽しむのではなく心理戦や情緒を読んでいく、いろんな解釈ができる終わり方だった。
まさしくタイトル通り、実は・・・と発した告白が後からの別の人物の告白で上書きされるというか、どんでん返しとはまたちょっと違う、解釈違いの波状攻撃?
たぶん登場人物たちはみんな、ある程度優しくてそして少しだけずるいのだ。
あー、やはりミステリをネタバレしないように紹介するのは難しい!
京都の人々の優しい言葉の裏に隠された真実を読み解くことがテーマの一つとなっており、これを読んだたら京都に住む気が起きなくなる事請け合いだ。
ここまで同じ言語を喋っているのに婉曲ないやみが横行しているのであれば、いっそ言葉が通じない国に引っ越したほうが傷つかなくて良いかも。
というくらい京都の老舗の表面上の会話の内容と真の意味の落差が怖すぎる。
この作品、なんだかんだちょっとみそつけてしまったけれど、やはりセリフだけで物語を進行させるというめずらしい手法にもかかわらず、飽きさせることなく最後まで引っ張っていくところが素晴らしい。なんだかんだ読ませるというか。
はんなりとした情緒あふれるミステリを楽しみたい方はぜひ。
とはいえ、◯曜日劇場みたいに型にはまった旅情ミステリでは決してないのでおたのしみあれ!
次に読みたい本
完全に遊びで「京都 秘密」で検索したらヒットしたこの本・・・何?
唯一のレビュアーのコメントによると「京都では知らぬ者のない有名な探偵」で「デカデカと看板に顔写真が載っている」にも関わらず「実物をみたひとはほとんどいない」らしい。
探偵になりなくなる本、とあります・・・・とても興味深い。