iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に読書録。読み終えた本がこのまま砂のように忘却の彼方に忘れ去られるのが申し訳ないので、書き留める。要は忘れっぽい読者の読書日記。

はじめはみんな子供だったのに「百年の子」

古内一絵の「百年の子」という小説を読んだ。

小学館の小学一年生~六年生(とおもわれる)学年誌をめぐる長い長い物語だ。

 

 昭和~令和へ壮大なスケールで描く人間賛歌。

人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。

 舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。
 世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。
 なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。
 子どもの人権を真剣に考える大人たちの軌跡を縦糸に、母親と子どもの絆を横糸に、物語は様々な思いを織り込んで、この先の未来への切なる願いを映し出す。
 戦争、抗争、虐待……。繰り返される悪しき循環に風穴をあけるため、今、私たちになにができるのか。

いまの時代にこそ読むべき、壮大な人間賛歌です。

Amazonより

 

子供ってなんだ

タイトルの百年の子には、子供が「小さくて弱い大人」ではなく、子供とみとめられてからまだ100年しか経っていない、という意味だ。

 

確かに、100年以上前の物語を読む限り子供は「物のように売り買いされている」

おそらく100年以上前の人間も生まれてきた自分の子供は可愛かったに違いない。

ただ、人権はなかった。

 

今でもともするとこの小さくて弱い生き物を大人と同じ扱いしていない。

 

彼らは、それを怒ったりすることができない。なぜなら、小さくて弱い殻だけではない、あっという間に大人になってしまうからだ。

子供として子供の人権を勝ち取る運動ができないわけだ。

そう考えると、はじめはみんな子供だったはずの私達は、がんばって子供の気持ちを想像するしかなくなるのだ。

 

・・・なんでだ!

 

こんなに別の生き物の気持ちがする子供と、私が連綿と繋がっている一つの生物なのは結構不思議なことかもしれない。

変わったつもりはないのに、今更10歳の頃の自分がほしいものが思い出せない。

 

ピカピカの一年生を懐かしむ!

「百年の子」は、文中では分林館となっているが、おそらく小学館学年誌の創刊から今までが語られている物語だ。

 

毎年、年度末になると「ピッカピカの一年生」というほのぼのCMが流れていたが、今ではどうやらあまり売れてはいないらしい。

 

一年生から六年生まであったシリーズは今では一年生と8年生になってしまったらしい。昔、祖母の所に行くと必ず買ってくれた小学◯年生シリーズ。

なつかしいなぁ。うれしかったなぁ。なくなるのは切ないなぁ。

 

そういえば、小学8年生が出たときはかなり話題になった。

付録がね~大人でもちょっと欲しくなるのよね~

 

 

 

 

 

 

本書の中で手塚治虫と思われる漫画の神様が出てくる。その名も「とつかおさむ」

 

彼の天才エピソードは面白かった。

 

手塚治虫がつねに2歳年齢をサバを読んでいたらしい。

理由はわからないが、そうすると彼の人生は昭和の元年から始まり、そして狙ったわけではないだろうが、昭和が平成に変わる頃になくなっているのだ。

彼の一生がほぼ昭和と重なるというのを聞き、(調べた。確かに)何故か説明のつかない鳥肌が立っている。

 

母と娘の葛藤、女と仕事の葛藤は永遠なのか?

この小説のもう一つの軸は、母娘孫の3代にわたって、それぞれが「仕事」と「子育て」と「自分」に向き合う姿を描いているところだ。

 

女が抱える問題は常に切実で、令和キャリアウーマンの孫娘「明日花」ですら悩む。

 

明日花は女性誌編集部でキャリアを積む編集者。ところがひょんなことから彼女は、学年誌の特別企画の担当に回されてしまう。

 

その理由は、育児休暇から復帰した同期を別の部署に出すのがかわいそうだから、という上層部の判断でした。

 

この出来事を受け止めることができず「私ばかり損をしている」と彼女は苛立ちます。

 

わかる。子供が・・・と言われたらその人の後の仕事は全て巻き取らねばならぬもの。しかも文句の一つも言えないんだもの。

それで、更にそんな理由で部署を変えられたら、そりゃ腐るわ。

 

この小説がとても印象的なのは、母娘孫の3代にわたる女性の人生がそれぞれ違いながら、共通して「仕事」と「子供」と「自分」に向き合う姿勢を持っている点だ。

 

戦中に育った母スエの悩みと娘、孫の悩みはみんな違うでも、でも女性が抱える問題は尽きることがない。

ただ、薄紙を剥がすように、少しずつ少しずつ幸せな社会を実現できていると信じたい。

次の世代に渡すときには、今よりも少しでも良いものを渡したい。