横溝正史の「死神の矢」を読んだ。
浴室の鍵穴を覗いた金田一耕助の眼に異様な光景がとびこんできた。噴射しつづけるシャワーの雨、その下には胸部に白塗りの矢を射ちこまれた男の変死体が……。弓の収集家として名高い考古学者の古館博士が開催した粋狂な弓勢くらべ。博士の愛娘早苗の婿選びが目的のこの競技で、三人の候補者のうち一人がみごと的を射とめた。だがその直後、競技に参加した若者が殺害された。伝奇ロマンの世界に構築された鮮やかな謎解きとトリック、横溝正史の傑作本格推理ほか一編を収録。
金田一耕助の友達古舘博士は、、娘の婿選びをユリシーズになぞらえて、弓のうまさで選ぼうとする。しかも海の上のボート上のトランプのハートを射抜いたものを婿にするというのである。
しかし、海上のボート上にあるトランプを射止めるなんてほんとにできるのかしら?
見事射止めたものには娘をやる、と古館博士は言ってしまうのだが、よりによって一番性格の悪い奴に射止められてしまう。そもそも古館博士はこの3人に娘を結婚させる気などさらさらなかったのだ。
しかし、根性も曲がっていれば空気も読まないこいつらはめちゃくちゃ練習してきて、射止めてしまう。
博士はある計画のためにこんな茶番を行おうとするのだが、本当は娘の早苗と助手の加納が結婚してくれたらいいと思っている。二人は相思相愛なのだ。
この話ね、やっぱり金田一耕助は最後まで犯罪をくいとめられなかったのよ。
でもね、殺された三人とも行いも悪いし、感じも悪し「死んでもしょうがない」とまで言われたろくでなしの男たち。
もしかして金田一耕助は犯罪を途中で止める気がなかったのでは、とも思われる。
殺人の動機も、え!っと驚くものだったし、殺人計画者と主犯と従犯が全く別々の意思を持って動いたがために、事件は謎を深めていく。
殺すつもりで計画を立ててたら、何者かによって先に殺されてたら、犯人も驚くよね。
それもこれも、秘密の純愛のせいで後先を考えなくなったシニアたちが、やっちゃうんだよねー。詳しくは読んでほしい!
今回の犯人は潔くってホントかっこいのである。
もう一遍はユーモアあふれる「蝙蝠と蛞蝓」(こうもりとなめくじ)
金田一の隣に住む湯浅順平は「小柄で貧相で人を食ったような」金田一が気に食わなくってしょうがない。
それで、暇つぶしと腹いせを兼ねて「金田一耕助が犯してもいない殺人で断罪される」小説(のようなもの)を書く。
ちなみに殺されてしまうのがやはり彼が「ナメクジ」と言って嫌いぬいている女。
金田一のことは「いつもふらふら、夕方になると出ていく気味の悪い男で「蝙蝠」と呼んでいるのである。
しかし、実際にその小説と同じような殺人事件がアパートで起こってしまうのである。
もちろん疑われる順平。しかし犯人はまさかの人物で・・・
他の話ではさすがに主役の金田一耕助、そこそこヒーロー扱いなんだけど、この話では言われ放題。
最後は「蝙蝠」と呼んで嫌っていた金田一に助けられ、すっかり蝙蝠が大好きになってしまった順平。金田一の素敵な一面をまた発見できる一冊、おススメ!