横溝正史の「女が見ていた」を読んだ。
まるで山頭火の俳句のような突き放すようなタイトルだが、最後まで犯人の目星がつかず(当たり前だが)金田一耕助が出てこないのに、ぐいぐい読めた。
そう、金田一耕助出てきませんので、舞台はスタイリッシュな都会です。
酔い痴れて夜の歓楽街をさまよい歩く啓介は、絶えず女の視線を感じていた。それも三人が入れ替わりながらあとを執拗につけてくる。朦朧とする頭の中で、彼はそのことだけをはっきりと意識していた。外出中に妻を殺害され、現場にいつも持ち歩いていたシガレット・ケースがあったために妻殺しの重要容疑者にされた作家の風間啓介。自分のアリバイを証明する謎の三人の女を必死に探索する。だが、その中の一人を見つけた時、彼女は……。横溝正史が描く本格ミステリーの最高傑作!
そして、あらすじを見てもらえば、ご存じの方はぴんと来るはず。
と、偉そうに言ってみたが未読。
ただ、海外ミステリのマストリードとして有名なので
「かねがねお名前だけはうかがってまして、お読みしたいなーと思ってたとこなんですよぉ」と人間だったら挨拶する感じ。
・・・と、ところが横溝正史さん、そのものずばりの小説も書いていたようで、こちらは 由利先生シリーズのよう。読まねば。(すごい唇噛んでる・・・血しぶき垂れてるし)
さて、横道にそれたが「女が見ていた」の感想。
まず、主人公、啓介が冷たい・・・
妻がかわいそう。殺されちゃったんだからかわいそうなのは当たり前なんだけど、
まったくその点は気にされていないというか、啓介は自分の疑いを晴らすことしか考えてなく、妻が殺されて悔しいと悲しいとかはなさそうなのである。
それもそのはず、親友の妻になった元カノがいまだに忘れられてないのである。
(そして最後には翻意してどうやら若い娘と一緒になりそうなのよ!)
感情移入できるわけがない!
田代皓三という啓介の軍人時代の部下が出てきて、この人がなかなか活躍するのだが、ひげのないクラーク・ゲーブル(~1960)と呼ばれたりして、相当いい男の模様。
名前は聞いたことあるけど、顔が思いつかなかっため検索しちゃった。
濃い顔のいい男である。
他にも、パンパンとかリンタクとか時代を感じる言葉がたくさん出てくる。
リンタクは自転車のタクシーのことだった。パンパンはご存じない方はけんさくするがよろしい。
なぜか自分のことを尾行していた女たちに気づく。酒に酔っていてはっきりわからないが、彼女たちを探し出して自分のアリバイを証明しないといけない啓介。しかし犯人は次々とその女たちを殺して回るのだ。
邪魔なものを非情に殺して回る犯人は、たぶん狂気の域に達している。
ここが、ほぼ動機のない殺人で最後までミステリーを謎のままにしているのだ。
被害者たちの人権のなさにちょっとびっくりするけどおススメ!