澁澤 龍彦の同名小説のコミカライズだ。
幼い頃に、父帝の寵姫であった藤原薬子より、寝物語で天竺の話を聞かされていた皇子・高丘親王は、長年、彼の地への憧憬を抱き続けていた。
それから数十年、成長した彼は夢を実現するために、エクゾティシズムに満ちた怪奇と幻想の旅に出立したのだった。
幻想文学史上に屹立する巨峰を、果敢なる漫画家が端正で妖しく描き尽くす。渾身のコミカライズ。
いろいろすごいなーと思う。
まず、主人公がおじさん。
60歳をとうに越しているのに50そこそこにしか見えない「みこ」と、サブキャラクターが強うそうなのと博識そうな二人の坊さん。びっくりするくらい華がない。
そこに、秋丸(こちらはとってもキュート)という少年(のちに少女だったことがわかるのだが)が加わり4人の航海が始まる。
物語はなんとも人を喰ったようなファンタジーだ。
特に話がオオアリクイのところに来たときには、私の頭は色々考えることをやめた。
多分この話は考えすぎちゃいかん。
私は今まで澁澤 龍彦の本を読んだことがない。
私の中では「異端文学?中世ヨーロッパっぽい?」分野の、
とにかく「開けてはいけないドアの向こうの人」というイメージだった。
近藤ようこがコミックにしてくれたからこその出会いだ。
多分これからも澁澤 龍彦の本を購入して読むことはないだろう。
これは、彼に魅力を感じないということではもちろんなく、多分私のファンタジー読解脳では読みきれないと思っているからだ。不憫なのは私の方だ。
そう、とにかくぶっ飛びまくったお話だったのだ。
それこそ1巻に出てくる「ジュゴンの虹色の糞」のような、きれいなのか美しいのか面白いのか不可解なのか、うまく表せない物語。
それが、近藤ようこのカリカリした絵柄で綴られる。・・・美しい。
白い部分と黒い部分がパッキリ別れた、細い細い線で描かれた女性からは、およそ生々しさが削ぎ落とされている。
女性だけではない、おっさんの「みこ」だって、彼女にかかれば美しくなってしまうのだ。
天竺を目指すみこは、途中喉の病に侵されしまい、そこにたどり着くことなく自らを虎に食わせて死んでしまう。
虎のお腹の中に入って天竺を目指す作戦だ。
作者澁澤 龍彦ももまた、咽頭がんを患いながらこの話を綴ったのだそうだ。
作中の死を見据えたみこは、怯えた様子はまったくなく、
むしろ虎に自分を食べさせるアイデアをひらめいたときは楽しそうですらある。
実際の滝澤もこんな幸せな気分を味わえていたのだろうか。
そういう意味でも、ほんとにすごい本読んじゃったなと思う。
すごい滝澤龍彦ととすごい近藤ようこが描いたすごい漫画。
すごいを3つも使うもはや頭の悪さしか表現していない褒め言葉。