山口恵以子の「ゆうれい居酒屋」を読んだ。
「食と酒」小説の名手が贈る、心温まる居酒屋の物語
新小岩の居酒屋・米屋は気の利いたつまみとおかみの人柄で悩みを抱えたお客も癒されるのだが、じつはとんでもない秘密があって……。
新小岩にある、ちょっと気の利いた居酒屋、米屋(よねや)は女将さんが一人で切り盛りするこじんまりした常連さんばかりの居酒屋だ。
わたしはタイトルの「ゆうれい居酒屋」からてっきり幽霊が店に居着くとか客が幽靈かとおもおもっていただが違った。
実はこの女将さんが故人だったのだ。なのでそっちか!という驚きも大きい。
いくつかの短編が収められた小説だがルールはいつもこの3つだ。
・ひょんなことから今はなき米屋にたどり着く。
・おいしい創作メニューをたべさせてもらう。
・旅先の恥は書き捨てではないけれど、一見さんだということも合って赤裸々に身の上相談をしてしまう。
そして、最大のポイントは女将さん自身が10年も前に自分が亡くなっていることに気づいていない事かもしれない。
訪れる人達の悩みはどれも個性的で「お店を継ぎたくないイタリアンの名店のオーナーシェフの息子」とか、「好き嫌いが激しいグルメレポーター」とか「妻を愛しているのに一緒に住むのが息苦しいイケメン」とかなかなか周りに相談しにくい悩みのオンパレード。
特に偏食グルメレポーターの女性の悩みを聞いて、女将も驚いていたけどわたしも驚いた。
大きくなるにつれ食べられるものが増えたけれど、それは我慢して食べることができるようになっただけ。
彼女にとって人との食事は楽しいものではなく我慢でしかない。
そっかー。好き嫌いをせずに何でも食べるというのを正しいと思いがちのわたしたちは、食べられるようになって良かったね。と思っているけれど、それは本人にとってはちっともよいことではないのだな。
やー職場の若い子に玉ねぎ食べなさい、とか普通に言ってたわ。ほんとやめよう。
この本のもう一つの特徴は創作料理がたくさんでてくるところ。
なかでも「しじみの醤油漬け」はまことに興味深い。
小説の中でも女将が作り方を語るシーンが結構あるのだ、どれもこれも手軽にできそうで真似したい。と思っていたらなんと、文末にきちんとレシピ集をつけてくれている。
冷凍庫と電子レンジをフル活用したメニューはなかなか本格的でお酒にも合いそう。
タコとか貝とか冷凍のほうが美味しい、みたいなことが書いてあって、早速タコを勝ってしまった。「和風カルパッチョ」にしてみようと思う。
ずいぶん食べ物に関する造詣が深いというか、料理のシーンが地に足がついてるなーと思ったがそれもそのはず、作者は丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務しながら、小説のを書き、2013年に54歳で松本清張賞を受賞して作家デビューした「食堂のおばちゃん」作家だったのだ。
作品のラインナップも、「食堂小説」三シリーズがあり、「食堂のおばちゃん」「婚活食堂」「ゆうれい居酒屋」とパワフルに3つ平行に執筆中らしい。
ただ、食堂のおばちゃん作家、という呼び方に誰も引っかからなかったのかな、という気はするけど。
次に読みたい本
本じゃないけど、これ思い出すわよね~