今期の直木賞候補、蝉谷 めぐ実 の「見えるか保己一」を読んだ。
江戸後期の全盲の国学者「塙保己一」 を主人公とする評伝で、過剰に美化することもなく、少年の頃から大きな仕事を成し遂げる晩年まで追いかけたストーリーでとても良かった。
あまりにも記憶力が良く、全盲のハンデをものともせずに国学者として大成する保己一。
だが、見えないことで騙されたり、人が信じられなくなったり揺れ動く気持ちが良く描かれている。
とくに、最期の章で幼馴染のてるちゃんとのシーンは大きな感動が味わえる。
目が見える者も、見えぬ者のどちらにも「なーんも見えちゃいねぇ」と言い放ったてるちゃん。
てるちゃんは自分の人生を棒に振って、見えない保己一の事をずっとずっと見ていたのだ。見守っていたのではない、いつか保己一の足をすくうためだ。
幼稚で残酷なてるちゃん。
幼いときから、自分のほうが保己一より何でもうまくできるはずなのに・・・
誰も俺のことは褒めてくれない。俺には目が見えているから。
あいつはずっとみんなから下駄を履かせてもらっているくせに。
ずっと、保己一のことだけど考えていたてるちゃんは、最期に自分がどれだけ保己一を妬んできたか思い知らせようとしたのに、やっぱりそれができずに「オランダに行く」なんてうそぶいて去ってしまう。
てるちゃんの代わりに浪人に腹を刺されていながら。
愚かでそしてやっぱり保己一の唯一のトモダチのてるちゃん。
カバーの絵がちょっと怖いなぁと思っていたが、読み終わった今私は涙が止まらぬよ。
良かった。
全盲の天才学者が感じたのは、絶望か希望か。俊英の新境地にして大本命!
【第39回山本周五郎賞受賞】
江戸時代の全盲の国学者・塙保己一。幼少期に失明するも、学問を志し、やがて国内最大の叢書『群書類従』の編纂という、前代未聞の大事業に取り掛かる。類稀なる記憶力で、学者として輝かしい経歴を築いていく保己一だったが、その傍らに常にあったのは、晴眼者――妻、学者仲間、弟子らとの、すれ違いだった。
“天才・塙保己一”の胸中にあったのは、絶望か希望か、それとも――。
次に読みたい本
もう一つの直木賞候補。こちらも時代小説。

