iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に忘れっぽい私の読書録。最近はもっぱらAudibleで聞く読書

「「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか」

三宅香帆の「「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか」を読んだ。

 

「話が面白い人」というのは、生まれつき話術がうまい人のことではなく、たぶん世界との接続端子が多い人のことなのだ。

 

三宅香帆、読む本読む本、若いのに素晴らしいな、いや若いからこそ素晴らしいなと思っている。最近の大躍進ぶりもすごい。あちこちで名前を見るたびに「おお、また三宅香帆」と思う。もはや三宅香帆包囲網である。いい意味で。

 

この人の良さは、世界に対してまっすぐで誠実なところだと思う。少なくとも、そうあろうとしている。その姿勢が文章からにじみ出ている。皮肉や斜に構えた賢さではなく、他者や本や世の中に対して、まず信頼して近づいていく感じがある。

 

そして私は、その他者への信頼感みたいなものに若さを感じるのだ。

 

「「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか」は、タイトル通り、話が面白い人になるために何をどう読めばいいのか、という本である。ただし、読めばすぐに雑談の達人になれます、みたいな安直な本ではない。

 

残念ながら、そこに即効性のある魔法はなかった。そりゃそうだ。あったらみんな今ごろ無双している。

 

話が面白い人になるためには、結局「教養」が必要なのだと思う。そして教養というのは、単に知識をたくさん持っていることではない。読書や映画やニュースや日々の体験から得たものを、会話の中で「これは、あれだな」と引き結ぶ力のことなのだろう。

 

たとえば、誰かが初めて聞くような話をしていても、自分の中に似た話や過去の出来事や物語があれば、「それって〇〇に似ている」と考える。その瞬間、会話はただの情報交換ではなくなる。別の角度から光が当たる。面白い話というのは、たぶんそういうところから生まれるのだ。

 

「「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか」では、そのためのインプットとアウトプットの方法が丁寧に書かれている。読むだけで終わらせず、自分の言葉にする。誰かに話せる形にしておく。そういう地道な訓練が必要なのだ。

 

教養があればあるほど、みんなの会話が答え合わせになるような感じなのかもしれない。「あ、それ知ってる」「それはあの話とつながるやつだ」と、世界のあちこちに付箋が貼られていく。なんにも知らないより、その方がきっと楽しい。

 

でも一方で、毎回まっさらな気持ちで驚けることも、ひとつの才能のような気がする。何も知らないからこそ「えー!」と大きく驚ける人もいる。あれはあれで、かなり尊い。知識が増えると、驚き方が少し変わってしまうところもあるのだ。

 

とはいえ、教養はやっぱり羨ましい。「「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか」を読んでいると、それを身につける作業は、気が遠くなるほど薄いティッシュを一枚一枚重ねて、何かを作っていくようなものだと思った。すぐに形にならない。水分を含んだら破れそうだし、風が吹いたら飛んでいきそうだ。

 

すぐに答えがほしい私たちは、たぶんすぐに投げ出してしまう。そもそも「教養をつけるために何かをする」というのも、なんかちょっと違う気もする。教養とは、役に立てようと握りしめた瞬間に、少しつまらなくなるものなのかもしれない。

 

それでも、本を読むことや、誰かの話を聞くことや、知らないものを面白がることの先に、いつか会話の中でふいに「あ、これはあれだ」とつながる瞬間があるなら、それはちょっといいなと思った。

 

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「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか(新潮新書)

「とっさに言葉が出てこない」「アイスブレイク的な雑談が苦手」「飲み会で昔の話ばかりする大人になりたくない」……そんな時、話題の本や漫画、最新の映画やドラマについて魅力的に語れる人は強い。社会や人生の「ネタバレ」が詰まったエンタメは、多くの人の興味も引く。ただ、作品を読み解き、その面白さを伝えるには、実は「コツ」がある。気鋭の文芸評論家が自ら実践する「『鑑賞』の技術」を徹底解説!

【目次】
まえがき

第一部 技術解説編
1 話が面白いという最強のスキルについて
2 味わった作品を上手く「料理」してネタにする
3 具体例でわかる! 物語鑑賞「五つの技術」
4 「鑑賞ノート」をつけてみよう
5 読解力があればコミュニケーション上手になれる

第二部 応用実践編
1 〈比較〉ほかの作品と比べる
欲望と格差が引き起こす人間ドラマ――『地面師たち』vs.『パラサイト』
「ここ」を肯定して生きる――「成瀬」シリーズvs.『桐島、部活やめるってよ』『あまちゃん』
「推し」時代の師弟関係――『メダリスト』vs.『ユーリ!!! on ICE』
強くなりたい少年たち――『ダイヤモンドの功罪』vs.『実力も運のうち 能力主義は正義か?』
なぜ中年男性はケアをしないのか問題――『LIGHTHOUSE』vs.『OVER THE SUN』
息子であり、父であり、夫ではない男たち――『君たちはどう生きるか』vs.『街とその不確かな壁』  ほか

2 〈抽象〉テーマを言葉にする
ケアの倫理の物語――『ダンジョン飯』『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』
父性の在り方を問う物語――『不適切にもほどがある!』『喫茶おじさん』
ネットがつれてきた感情――『エレクトリック』『##NAME##』『ハンチバック』
アンコントローラブルの文学――『ともぐい』『八月の御所グラウンド』
ローカル性の復活――『地図と拳』『しろがねの葉』『この世の喜びよ』『荒地の家族』
「親ガチャ」に外れた人生のその後――『水車小屋のネネ』

3 〈発見〉書かれていないものを見つける
消えたブラザーフッドの行方――『女のいない男たち』『ドライブ・マイ・カー』
令和の「こじらせ男子」が持っていないもの――『こっち向いてよ向井くん』
ポスト「逃げ恥」時代の家庭問題――『海のはじまり』『西園寺さんは家事をしない』『SPY×FAMILY』  ほか

4 〈流行〉時代の共通点として語る
「おいしいごはん」は幸せの象徴か――『おいしいごはんが食べられますように』『デクリネゾン』
令和の源平ブーム――『鎌倉殿の13人』『平家物語』『犬王』
今なぜSFがウケるのか――『三体』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
SNSでバズる短歌――『あなたのための短歌集』
「はて?」「なぜ?」が求められている――『虎に翼』
正しさをめぐる問いかけ――『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす』『訂正可能性の哲学』
芥川賞候補作は時代を反映する――『バリ山行』『サンショウウオの四十九日』  ほか

5 〈不易〉普遍的なテーマとして語る
物語は陰謀論に対抗しうるか――『方舟を燃やす』『女の国会』『一番の恋人』
「推し」ブームの変遷――『推し、燃ゆ』
「私小説」が流行る理由――『文藝』「ウィーウァームス」『アイドル2・0』
名作リバイバル・ブーム――『THE FIRST SLAM DUNK』
村上春樹の継承者を考える――『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ブランチライン』
『光る君へ』と源氏物語――『光る君へ』『あさきゆめみし』
「ノンフィクション本三宅賞」を決めてみる――『太陽の子』『ネット右翼になった父』『母という呪縛 娘という牢獄』
ウクライナ、灰色の空――『ペンギンの憂鬱』『ウクライナ日記』

あとがき

付録 話が面白くなるブックリスト

三宅香帆
文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。1994(平成6)年高知県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程中退。主に文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動。著書に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『「好き」を言語化する技術』など多数。

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