柚木 麻子 の「ランチのアッコちゃん」を読んだ。
落ち込んでいる時に必要なのは、なぐさめよりも、うまい昼ごはんなのかもしれない。
「ランチのアッコちゃん」に登場するアッコさんは、背が高くて前髪ぱっつん。どう見ても某大物歌手を思わせるビジュアルで、上司として目の前に現れたら、まあまあビクビクものよね。
主人公の三智子は、彼氏に振られたばかりの派遣OL。失恋のダメージで、心も体もすっかりしょんぼりしている。そんな彼女に、アッコさんはいきなり「私のランチとあなたのお弁当を交換しましょう」と命じる。
命じる、である。
相談でも提案でもなく、ほぼ業務命令。上司がこんなことを言い出したら、普通は「え、何の研修?」となる。しかし三智子は断りきれず、翌日からアッコさんのためにお弁当を作ることになる。代わりに、アッコさんがいつも行っているランチの店へ行くよう言われるのだ。
一見すると乱暴で押しつけがましい。今の時代なら、ちょっとしたパワハラ案件として社内チャットがざわつきそうである。しかし、読み進めるうちに、その強引さの裏側にあるものが見えてくる。
アッコさんは、落ち込んで動けなくなっている三智子を、無理やり外の世界に連れ出してくれたのだ。
毎日違う場所でランチを食べる。知らない人と出会う。アッコさんのために弁当を作る。たったそれだけのことなのに、三智子の生活には少しずつリズムが戻ってくる。失恋で頭の中がいっぱいだったはずなのに、「明日のお弁当、どうしよう」と考える余白ができる。
これ、けっこう大事だと思う。
人は落ち込んでいる時、自分の悲しみに集中しすぎてしまう。もちろん落ち込む時間も必要なのだけど、ずっとそこにいると、だんだん悲しみが自分の部屋みたいになってしまう。アッコさんは、その部屋のカーテンを勝手に開けて、「はい、外行くよ」と言う人なのだ。乱暴だけど、さいきんはそういう踏み込みができる人は少ない。
「ランチのアッコちゃん」は、表題作のほかに「夜食のアッコちゃん」「夜の大捜査先生」「ゆとりのビアガーデン」の4編からなる短編集である。
中でも印象に残ったのは「ゆとりのビアガーデン」だ。
“ゆとり世代”と言われる女の子を雇ったものの、どうにも使えないと判断して辞めさせた上司。ところが、その彼女がなんと屋上にビアガーデンを作るという。できない、使えないと侮っていた相手が、実はものすごくパワフルでしたたかな商売上手だった、という展開が気持ちいい。
「ランチのアッコちゃん」に出てくる人たちは、みんな少しずつ不器用で、少しずつ疲れている。でも、食べること、働くこと、人に会うことで、知らないうちに前に進んでいく。
落ち込んでいるなんて時間がもったいない。
もちろん、そう簡単に元気になれない日もある。でも、ランチに出かけるくらいならできるかもしれない。お弁当を作るくらいならできるかもしれない。そうやって小さく体を動かしているうちに、案外、心のほうがあとからついてくるのかもしれない。
やっぱり、一歩踏み出せる人は強いなと思った。そして、その一歩を半ば強制的に踏ませてくれるアッコさんみたいな人も、人生にはたまに必要なのかもしれない。できれば、ほどほどの圧でお願いしたいけど。
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発行部数12万部を超え、著者を一挙に若手人気作家へと押し上げた注目作がついに文庫で登場! 彼氏にフラれて落ち込んでいた派遣社員の澤田三智子は、畏怖する上司、通称“アッコ女史”こと黒川敦子部長から突然、一週間のランチ交換を命じられる。表題作ほか、「読むと元気になる!」と絶賛され、本屋大賞にもノミネートされたビタミン小説。
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私が最も影響をうけた弁当レシピ。
これだけでいい系の許しは心をやわらげてくれる。
お陰で最近は、「卵となんか野菜となんかタンパク質とご飯」のワンパターンだ。
いける!子どもが幼稚園のころキャラ弁とかつくってたのが、前世の話に思える。

