朝井リョウの「生殖記」を読んだ。
いまだかつてない語り部による衝撃作。
生殖器、つまりクレヨンしんちゃんが喜んでフリフリしているアレが、最初から最後までずっとハイテンションで語る。
もうこの時点でだいぶどうかしているが、軽妙な語り口で思いのほか読みやすい。
語り口?どういう事?となるがあまり考えてはいけない。
朝井リョウといえば「正欲」も読んだので、ああいう重たさを覚悟していた。もちろん「生殖記」も軽い話ではない。突飛な設定とコミカルな文章で包まれているが、その奥にあるものはかなりヘビーである。
この物語の主人公は尚成という男性だ。(厳密に言うと彼のちん◯んだ。)
彼は幼いころから、自分が同性愛者であることを周囲に知られないように、それだけを守って生きてきた。同性愛者であることは、共同体の繁栄に役に立たない。だから排除される。そう思っていたからだ。
そういえば数年前、「生産性」という言葉で同性愛者を非難した政治家がいた。あの人、結局どうなったんだろう。そんな言葉の残響から、この物語は紡がれている。
ところが、ここへ来て社会は急に「多様性」と言い出す。「同性愛者に生産性がないなんて間違っている」と、まるで急にコンプラ仙人のような顔をして言い始める。これまで尚成を否定し、締め出していた社会が、今度は上から目線で「許してやる」とでも言うように認め始めるのだ。
穏やかで無気力に見える尚成も、心の底では怒っている。そんなの全部、どうでもいいと。
彼の関心は、有り余る時間をどう消費するか、それだけだ。「何かをするときは手を添える。でも力は込めずに」をモットーに、社会にバレないように生きている。
けれど一歩間違えば、目的が見いだせなくて自死を選んでしまうかもしれない危うさもある。
ただ、彼はそれを選ばない。
自らの寿命を全うするために、ただひたすら寿命を消費している。たとえば手の込んだスイーツを作り、摂取したカロリー分だけ運動する。人から見れば「何のために?」と思うような行為でも、彼にとって生きること自体が、永遠に続く時間つぶしのようなものなのだ。
私も最近おもうのだ。産まれてきた意味とかないとダメなのかなって。
頑張らないと生きてちゃいけない雰囲気出しすぎではないだろうか。
生産性があるとかないに執心するのではなくて、あろうがなかろうが生きてていいじゃん。ってならなかったところが、あの時の私たちの失敗だったな。
「生殖記」は、設定だけ見ればかなりふざけている。だが、そのふざけ方でしか触れられない孤独や怒りがある。
この本を読んで、少しだけ朝井リョウのメンタルが心配になったよ。
エッセイではあんなにも面白いことを見つけるのが上手なのに。
本屋大賞の受賞インタビューでみた彼の笑顔の下にも危うさのような物があるのかも知れない。
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◆「2025年本屋大賞」ノミネート・「キノベス!2025」第1位◆
『正欲』から3年半。本年度最大の衝撃作、大反響10万部突破。とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。
体組成計を買うため――ではなく、寿命を効率よく消費するために。
この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。
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