伊与原 新 の「リケジョ! 」を読んだ。
理科の知識で物語が動くと、世界がちょっとだけ賢く見える。
「リケジョ! 」は、科学的な知見がふんだんに散りばめられた、いわゆる理系乙女ミステリーである。
主人公の律は大学院生。大学では理論物理学、だったかな、とにかく筋金入りの理系女子だ。理系女子、つまりリケジョである。
驚いたのは、この物語の冒頭で「リケジョ」という言葉が、ある種の悪口みたいに使われていたことだ。
あれ?
昔は侮蔑のニュアンスもあった「オタク」が、今ではすっかり市民権を得て、むしろ尊敬の対象になっているのと同じように、言葉の意味は時代とともに変わっていくのかもしれない。
でも、リケジョって悪口だったっけ?
ひょっとして、昭和世代のおじさんたちが「これからの時代は理系の女性にも活躍してもらわんとですな、ぐへへ」的な感じで使いすぎたせいで、今どきのお嬢さんたちからすると、なんとなく感じ悪い言葉になっているのだろうか。
などと変な気を回してしまったが、作者にリケジョを貶めるつもりはまったくなさそうなので、そこはご安心を。
そもそも作者の伊与原新は、東京大学の地球惑星科学科で博士号まで取得した元研究者である。つまり、理系の世界を外から眺めて「なんか難しそうですね」と言っている人ではなく、中の空気をちゃんと吸ってきた人なのだ。
だから「リケジョ! 」に出てくる理科の話は、ただの飾りではない。
虹ができる原理や、日食や月食についての話など、いわゆる理科の授業で習ったはずなのに、すっかり記憶の奥底で化石化している知識が、物語の中でちゃんと息を吹き返す。
こういうの、いい。
「勉強になります!」というより、「そういえば世界って、そういう仕組みで動いていたんだった」と思い出す感じがある。
そして、その科学の話の合間に描かれる律の不器用な恋模様がまたよい。頭はいいのに、気持ちの扱い方がまあ不器用。そこがハートウォーミングこの上ないのである。
このミステリーで忘れてはいけないのは、もう一人のリケジョ、理緒だろう。
小学生ながらリケジョに憧れ、なぜかハンダゴテを持ち歩いているちょっと変わった女の子である。
しかも高級志向のハンダゴテだ。
理緒のおかげで周りの大人たちが動き、結果的に解決した事件も数知れず。小学生にして、かなりの触媒である。理科っぽく言ってみた。
律と理緒、二人のリケジョが並ぶことで、「リケジョ! 」は単なる理系女子ものではなく、好きなものを好きでいることの強さを描いた物語になっている。
理系乙女シリーズ誕生、と書かれていたので、きっとシリーズは続くのだろう。続いてほしい。
不器用すぎる律の恋模様も、少しずつ進展するのかな。いや、急に器用になられても困るので、そのあたりは不器用なまま、じわじわ進んでいただきたい。
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