今村翔吾 の「童の神」を読んだ。
歴史というものは、勝った側がきれいに整えて後世へ渡していくのだな、としみじみ思わされる作品である。
「童の神」は、こちらが知っている伝承や歴史の輪郭をなぞりながら、その裏側にもうひとつの真実を立ち上げていく。いわば“鬼退治の物語”を、鬼の側から見直してみせる小説なのだが、これが実に面白い。ただの異聞や大胆な再解釈ではなく、「なるほど、そう語られたなら確かに悪として残るよな」と妙に腑に落ちるところがある。
主人公の桜暁丸がいい。
美しい容姿を持ちながら、周囲と違う見た目ゆえに差別され、疎まれ、それでも圧倒的な身体能力と器の大きさで人を惹きつけていく。たぶんあの時代にああいう存在は、それだけで異物であり、畏れの対象でもあったのだろう。理不尽な扱いを受けながらも、ただ虐げられるだけでは終わらず、自分たちの居場所を守る側に立つのが熱い。
少年時代から追ってきた読者としては、この桜暁丸がやがて「酒呑童子」と呼ばれる存在になっていくのが、なんとも切ない。
酒呑童子といえば、どうしたって錦絵に出てくる赤鬼の頭領というイメージが先に立つのだが、読んでいると、あの“鬼”というラベルそのものが、権力側の都合で貼られたものに見えてくる。いや待てよ、ハーフの白い肌ゆえに「赤ら顔の異形」として語られたのか……などと、つい想像まで広がってしまった。「童の神」は、そういう連想をどんどん誘ってくるのが楽しい。
桜暁丸たちが目指していたのは、すべての民が少しでもましに、生き延びられる世だったはずなのに、伝える側が変われば“鬼の討伐”になる。
その反転がこの作品のいちばん面白いところであり、同時にいちばん怖いところかも。
安倍晴明や渡辺綱、坂田金時なども登場する、歴史好きにはサービス満点な物語。
伝わっている歴史を裏側から見せてくれる、歴史アナザーサイドを描ききった一冊。
ちなみに、このちらっと見えているよろ兜の人は酒呑童子ではない。
酒呑童子はその上から睨みつけている生首だ。
なまじ桜暁丸がかっこいいキャラだけにギャップが激しい。
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平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。彼らは鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥……
などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人から蔑まれていた。
一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、
越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。
さまざまな出逢いを経て、桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むがーー。
皆が手をたずさえて生きられる世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩(うた)。
次に読みたい本
渡辺綱と酒呑童子が出てくるストーリ。宝塚歌劇団が舞台化もしているこのマンガは私の大好きな木原敏江の作品。

