村田沙耶香の「世界99」を読んだ。
ここ3日ばかりこの本にどっぷりだったので、ようやく読み終わって少しホッとしている。
村田沙耶香という人はどんな人生を歩んできたのか、頭の中だけでこの物語を作り上げたのか。怖い人なのかも。それとも、ものすごく怖い目にあったことがある人か。
「世界99」は空子という女性が少女から大人になり、やがて人間ではなくなるまでを描いたSF(というジャンルが正しいのかわからんが)小説だ。
その名の通り空子は空っぽの人である。
自分が安全であるためにどう振る舞えばよいかだけを考え、その場その場を生きているうちに、コミュニティごとに違うパーソナリティを使い分けるようになっていた。
若い女性である空子は、さまざまな形で搾取される。女であるだけで常に見張られて、使われていなければならない(と空子は思っている)。それに対して空子が取る行動にも、理解できるところがある。
彼女は一切の他人を信じていないし、それどころか自分にすら何も期待していないように思える。
なんて、なんて恐ろしくて孤独な世界だろう。
そんなにも男性を、他人を、愛や信頼というものを、まったく信じていない生き方は地獄でしかないと思う。
ただ、そうではないとも言えないことが世の中にたくさん溢れているのを思い、絶望的な気分になる。
この物語をSFにしているのは、「ピョコルン」という生物と「ラロロリン人」という新しい人間が出てくるところだろう。
ピョコルンは「男、女、ピョコルン」として、我々の生活になくてはならない生き物だ。
物語の中では、最初はかわいいペットだったピョコルンが改良を重ね、人間の子どもを産むようになる。
女性は「産む性」から解放され、自分が男性からされていた搾取をピョコルンにするようになってくる。この方向転換が空子にはしっかり理解できていて、そう思ってしまう自分を側面から見つめるような感覚がずっとあるのだ。
そして「ラロロリン人」という新しい遺伝子を持った人間が発見され、最初は迫害され徐々に尊敬されていくことも面白い。
空子は自分以外の人間がラロロリン人差別をしていたこと全く忘れたように振る舞うことが不思議でしょうがない。そして、ああ、この人の中では記憶はこのように改ざんされたのだなと思う。
このように、語り手の空子は成長するにつれ、どんどん自分を外側から見られるようになり、というより外側からしか見られないようになっていく。
それがこの本のタイトル「世界99」に込められている。
そこからは「世界1」「世界2」「世界3」……と、空子が作ったたくさんの「世界」を俯瞰的に眺めることができるのだ。
最初は、なんてかわいそうな生き方しかできないのかと危ぶんでいた空子も、最期には、なんだか「正しい」人のような気もしてくる。
章が進むごとに空子の年齢も上がっていき、最期の章に入る時はものすごく緊張した。
彼女はどうなってしまうのか、肩に力が入ってしまった。
死後というか再利用後、こんなにきちんと意識があったら、辛いに決まってる。
改めて、村田沙耶香の紡ぎ出したこの小説の怖さにゾッとした。
美しい、女性ばかりが出てくるこの表紙絵には、どんな意味があるのだろうか。この本を読んだ男性側の感想も聞いてみたい。
この世はすべて、世界に媚びるための祭り。
性格のない人間・如月空子。
彼女の特技は、〈呼応〉と〈トレース〉を駆使し、コミュニティごとにふさわしい人格を作りあげること。「安全」と「楽ちん」だけを指標にキャラクターを使い分け、日々を生き延びてきた。
空子の生きる世界には、ピョコルンがいる。
ふわふわの白い毛、つぶらな黒い目、甘い鳴き声、どこをとってもかわいい生き物。
当初はペットに過ぎない存在だったが、やがて技術が進み、ピョコルンがとある能力を備えたことで、世の中は様相を変え始める。
私たち、ピョコルンに、全部捨てられるようになりましたよね。
性欲を。出産を。育児を。介護を。人生の時間を食いつぶす、あらゆる雑務を。
14年前、「リセット」を経験した人類は混乱の最中にあった。
しかしラロロリン人の考えた「人間リサイクルシステム」がうまく機能し、やがて社会は再生を迎える。
そして49歳になった空子は「クリーンな人」として、美しく優しい世界を生きている。生まれ育った街「クリーン・タウン」の実家に戻り、同級生の白藤遥とその娘・波とともに。
ようやく訪れた穏やかな社会の中心には、さらなる変貌を遂げたピョコルンがいた。
村田沙耶香渾身の大長編、ここに完結。
都合の良い「道具」・ピョコルンを生み出した果てに、人類が到った極地とは――。
『世界99 上』『世界99 下』を1冊にまとめた合本版!
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やっぱり、コンビニ人間を書いた人だなーと思う。
これも相当ヤバかったけど、世界99は長編でこのヤバさを浴び続けるので、心が弱い人は、ちゃんとフィクションであることをちゃんと自分に言い聞かせてないとダメかも。
私も、読んでいる最中、自分はこんなことをしていていいのだろうかという不安にかられた。あー怖い怖い!
