青柳碧人の「乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO」を読んだ。
偉人にも、まだ何者でもなかった時代がある――そう思うだけで、歴史はぐっと身近になる。本作「乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO」は、若き日の江戸川乱歩と杉原千畝が早稲田大学近くで出会っていた、という大胆な歴史IF小説である。
今の私たちから見れば、乱歩も千畝もすでに“完成された偉人”だ。しかし「乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO」で描かれる二人は、貧乏にあえぎ、将来も見えず、自己評価も低い若者だ。
乱歩は自分は仕事を続けることができないとくよくよし続ける。探偵小説がヒットを飛ばしても、すぐに書けなくてどこかに放浪のたびにでてしまう。
千畝もまた、のちに“命のビザ”で称えられる人物とは思えないほど、不遇の時代を長く生きている。
二人の人生は、何度も交差するわけではない。むしろ本当に数回だ。それでも不思議と強く惹かれ合う。
乱歩パートでは、若き横溝正史、松本清張、仁木悦子、山田風太郎らが登場し、日本探偵小説史の裏側を覗き見るような楽しさがある。私は勝手に、乱歩と横溝はもっと世代が離れていると思っていたのだが、意外と関係は近い。
しかも横溝正史の「恐ろしき四月馬鹿」の方が乱歩のデビューより先だったと知り、軽く衝撃を受けた。歴史は、思い込みでできている。
そして何より心に残ったのは、千畝の最初の妻との別れの場面だ。政局が二人の結婚を引き裂く。彼女は去り際にこう言う。「これから何かに悩んだら、“優しい”と感じる方を選んでください」と。私の説明が下手すぎで、嫌味にも聞こえるが違うの。
その前に「あなたは優しすぎて外交官に向いていない」と告げているのだ。
この言葉が、のちの“命のビザ”へとつながる伏線になる。合理でも出世でもなく、「優しい」と思える方を選ぶ。その選択の積み重ねが、歴史を動かす。
青柳碧人は、「乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO」で、偉業の裏にある迷いと弱さを丁寧に描き出している。
乱歩のこと「ちょっと変わった大御所」だと思っていたけどそれに「大変ナイーブな一面も隠し持つちょっと変わった大御所」に格上げする。
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探偵作家と外交官。若き二人が友となり……斬新な発想で描く波瀾万丈の物語。
大学の先輩後輩、江戸川乱歩と杉原千畝。まだ何者でもない青年だったが、夢だけはあった。希望と不安を抱え、浅草の猥雑な路地を歩き語り合い、それぞれの道へ別れていく……。若き横溝正史や巨頭松岡洋右と出会い、新しい歴史を作り、互いの人生が交差しつつ感動の最終章へ。「真の友人はあなただけでしたよ」――泣ける傑作。
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