柚木麻子 の「BUTTER」を読んだ。
実際の事件を下敷きにした小説。
首都圏連続不審死事件とも呼ばれているが、ほとんどの方は「木嶋佳苗」という犯人の名前で思い出すことが多いだろう。
この話はそれをベースにしながらも落としどころとしては事件とは全く関係ない方向へ着地する。
犯人の独占インタビューを取るために拘置所に通う週刊誌の記者、里佳。
彼女は傍から見ると心配になるほどストイックに仕事に打ち込み、女性初のデスクになるかもと思われてもいた。
そんな彼女だが、カジマナと呼ばれる犯人の圧倒的な話術に翻弄され、次第に殺されたとされる被害者は、たまたま不幸な偶然が重なっただけではないかと考えるようになる。
カジマナに強く惹かれた彼女は、勧めに従いまず「バター醤油ご飯」を食べ、バーターだけではなく欲望のままに生きることを自分に許せるようになる。
だが少し太った里佳に対する世間の風当たりは想像以上に大きかった。
太ることで「自分を律する事ができない怠惰な努力不足の女」と見下されてしまうのだ。
木嶋佳苗の事件で世間を騒がせたのはまさにそんな「太ったさほどきれいでもない女」が結婚詐欺をしていたからだ。
あまりにも衝撃的な小説だったので、あの事件が起こったとき、自分はどう思ったか思い出してみるが、確かにこの小説に書かれているような意味の「なぜ?」だった気がする。
あの時、きちんとものを考えななかったことを反省するが、確か「わからん!」と思考を停止したのだと思う。
この小説は私が放棄した思考を止めずに、「なぜ」を見事に描ききっている。
その中には、女性である私が認めるのが悔しいような女性蔑視が確かにあり、その醜い感情をテーブルの上に並べた上で、私たちはこれからどう考え、どう生きるべきなのかということも提示してくれる。
例えば、体型の話。
私たちは、いつまで、どこまで痩せていないといけないのか。
カジマナは何度も問う「どうして、他人のかたちがそんなに重要なの?」と
確かに、女性はどこまでも要求されている。
自立して、稼いで、優しいお母さんで、良き妻で、部屋もきれいで、料理も手作りで、おしゃれで、スリムで、健康で。
満点を取るのはほぼ無理なのに、皆自分の足りないところを探しているような気がする。
いや、女性だけじゃなくて男性は男性でやはり何かを求められ続けているのだろう。
だから、この犯人の言葉がすっと入ってきてしまうのだ。
タイトル「BUTTER」は欲望の象徴として描かれる。
読むと「バター」が食べたくなること受けあいだ。
バターだけでなく美味しそうな料理がたくさん出てくるので楽しい。
私もいつか七面鳥を焼いてみたい。
ちなみに私は、じゃがバターを頂きました。
若くも美しくもない女が、男たちの金と命を奪った――。
殺人×グルメが濃厚に融合した、柚木麻子の新境地にして集大成。
各紙誌で大絶賛の渾身作がついに文庫化!!男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。若くも美しくもない彼女がなぜ──。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳に〈あること〉を命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。
本作着想の根底には、世に知られた事件があったのは確かだ。しかし物語が進むにつれて、事件からも犯罪者からも遠ざかる。独立したオリジナリティーに富んだ物語が展開される。進路を定めた羅針盤こそ、「女性同士の友情と信頼」である。
山本一力(本書解説より)
次に読みたいかどうかはおいといて
カジマナのモデルとなった木嶋佳苗本人の自伝的小説。
レビューを読むと「文才あり」という意見と「自慢話ばかり」という意見に真っ二つ。
私は、怖いし引きずられるのが嫌だから読まないかなも。

