宇都宮直子 の「渇愛」を読んだ。
数年前に世間を騒がせた「頂き女子りりちゃん」事件について書かれたノンフィクションだ。
とーにかく面白かった!
自身も結婚詐欺のようなことを繰り返し、しかもその詐欺の方法を情報商材としてマニュアル化して販売していたことで、世間で大いに注目を集めた事件。
詳しく知りたい方はぜひ、Wikipediaを。
何がすごいって、まずそのマニュアルの構成がまるでビジネス書のように緻密なことだ。ターゲットの男性たちを「おぢ」と呼び、「ギバーおぢ」「テイカーおぢ」「マッチャーおぢ」とタイプ分けし、それぞれの攻略法を書いている。
最初に聞いたときは何のことかと思ったが、よくビジネス書で語られるギバー/テイカー/マッチャーの概念である。…この子、ひょっとしてとんでもなく頭がいいのでは?と思わせられる。
マニュアルそのものの凄さもあるのだが、ジャーナリストの宇都宮さんが彼女に面会を重ねるうち、だんだんりりちゃんの魅力に飲み込まれていく様子がまたスリリングだ。
彼女は犯罪を犯している。だが「本当に悪いのは彼女だけなのか?」という気持ちに読者もなってしまう。しかし、被害者と対面した後には「やはり彼女は罪を犯したのだ」と気づく。当たり前のことなのに、ベテランのジャーナリストですら判断が鈍るほど、実際に会ったときのりりちゃんには強い吸引力があったのだろう。
彼女が集めたお金はすべてホストにつぎ込まれていた。りりちゃんの心情を簡単に言えば、「自分はいつも被害者で、男にむしり取られたお金を別の男から取り返しているだけ。私は悪いことなんてしていない」という感覚が根底にある。
もちろん間違っているのだが、その生々しい感情を聞いてしまうと虐げられて過ごしてきた半生が彼女をこうしてしまったのかな?
「りりちゃん、そんなに悪いことしたかな?」という気持ちになるのも事実だ。
彼女にくだった刑はかなり重い。金額は大きかったとはいえ、人を殺したわけでもないのに懲役8年ほど。
事件の後、被害者の方が
若い女の子と付き合えると思う方がおかしいといったひどい中傷をうける。
今まで、おじさんは若い女性を金で買う。この構造はある意味汚いけれどもあった。
だが被害者はユリちゃんと本当に恋愛をしたと思って、お金を預けていた。
世間から見たら、25歳の子が50数歳の人に会って数日で、好きになるはずないじゃないってどうしても思っちゃうんだよなぁ。でも、これが被害者をまさにセカンドレイプのようにさらに苦しめてしまう。問題は根深いのだ。
彼女に群がっていた無数の男や女たちから、彼女は奪われ続けた。
別の選択肢ももちろんあったと思うが、彼女がこうなってしまったのは確かに回りのせいかもしれない。
「被害者は私にお金を払わないでほしかった」という発言に多分この子はまだ何も理解できてないんだろうなと思った。
彼女に心を寄せすぎてしまってすんでのところで冷静になる作者の様子がリアルで、ノンフィクションってやっぱりすごいなぁと思った一冊。
今年読んだノンフィクションの中では一番面白いかもしれない。
「頂き女子」に迫った衝撃ノンフィクション
複数の男性から総額約1億5千万円を騙し取った上、そのマニュアルを販売し逮捕された「頂き女子りりちゃん」に迫った本作に大絶賛の声続々!
◎町田そのこさん
彼女が奪う側に戻らない道を考える。読んでいるときも、読み終えたいまも。
◎橘玲さん
すべてウソで塗り固められた詐欺師
家族や社会から傷つけられた犠牲者
彼女はいったい何者なのか?
―選考委員激賞!第31回小学館ノンフィクション大賞受賞作―
◎酒井順子さん
りりちゃんの孤独、そして騙された男性の孤独に迫るうちに、著者もりりちゃんに惹かれて行く様子がスリリング。都会の孤独や過剰な推し活、犯罪が持つ吸引力など、現代ならではの問題がテーマが浮かび上がって来る。
◎森健さん
今日的なテーマと高い熱量。とくに拘置所のある名古屋に部屋を借りてまで被告人への面会取材を重ねる熱量は異様。作品としての力がある。
◎河合香織さん
書き手の冷静な視点とパッションの両者がある。渡邊被告がなぜ”りりちゃん”になったかに迫るうちに著者自身もまた、”りりちゃん”という沼に陥り、客観的な視点を失っていく心の軌跡が描かれているのが興味深い。
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