iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に忘れっぽい私の読書録。最近はもっぱらAudibleで聞く読書

『暁星』宗教と家族、あの問題は結局どうなったのか

湊かなえ の「暁星」を読んだ。

 

実は読後に嫌な気持ちになるのでは…と、しばらく聞き渋っていた作品だったが、いざ聴いてみると、その不安は杞憂に終わった。むしろ、心を大きく揺さぶられた。湊かなえの「暁星」は、宗教2世の痛みと、それに絡み合う人間の複雑な感情を丁寧に描いた物語である。

 

 

物語は、永瀬暁という男が起こした事件と、彼が週刊誌に発表した「獄中手記」から始まる。

 

この手記は、怒りに満ち、誰かに許しを乞う姿勢は見られない。読者はまるで、ノンフィクションのルポを読むように、この告白文と向き合わされる。母親の新興宗教への深い傾倒、それによって崩壊していった家庭、その果ての犯罪。そのすべてを綴った永瀬の言葉は、あまりに生々しく、時に粗暴で、共感と反発を同時に呼び起こす。

 

だが、「暁星」がただの社会派ミステリで終わらないのは、後半に入ってからだ。視点は小説家の女性へと移り、彼女の手によって永瀬暁の幼少期からの姿が、穏やかに、しかし確実に再構築されていく。ここから物語は一転してフィクションの装いをまとい、読者は彼女の筆を通して、永瀬のもうひとつの顔に出会うことになる。

 

その過程で浮かび上がってくるのは、永瀬と彼女の、淡く切ない関係性だ。やがて、最初に読まされたあの攻撃的な「獄中手記」の印象は覆され、読者はこの物語の奥深さに気づかされる。

 

ただ、この「暁星」が2022年の安倍元首相銃撃事件、そして旧統一教会の問題といった現実の出来事を強く下敷きにしていることは明白だ。

 

そのため、登場人物の永瀬暁を山上容疑者と重ねてしまう読者も少なからずいるのではないかと思った。

 

もちろん、作者はフィクションとして描いているのだが、テーマの生々しさゆえに現実との線引きが曖昧になる危うさもある。(というか、自分もちょっと流されそうになるので、改めて明記)

 

「暁星」は胸を打つ作品だった。だが、良すぎて取り扱い注意でもあるなーと思っている。R指定ではないけれど、ある程度分別がついた大人じゃない服用厳禁というか、それほど言葉の力を秘めているのだ。

 

 

 

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暁星

「ただ、星を守りたかっただけ――」 
現役の文部科学大臣で文壇の大御所作家でもある清水義之が全国高校生総合文化祭の式典の最中、舞台袖から飛び出してきた男に刺されて死亡する事件がおきた。逮捕された男の名前は永瀬暁、37歳。永瀬は逮捕されたのち、週刊誌に手記を発表しはじめる。そこには、清水が深く関わっているとされる新興宗教に対する恨みが綴られていた。また、式典に出席していた作家は、永瀬の事件を小説として描く。ノンフィクションとフィクション、ふたつの物語が合わさったとき見える景色とは!?

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作中で黒蜥蜴の文庫本が何度か出てくる。

初恋の思い出の品。

黒蜥蜴 (江戸川乱歩文庫)