金原ひとみの「YABUNONAKA―ヤブノナカ―」を読んだ。
読後、しばらく呆然とした。この人、すげぇ。語彙があれだが、そうとしか言いようがない圧倒的な読書体験だった。
タイトルの「YABUNONAKA―ヤブノナカ―」は、おそらく芥川龍之介の「藪の中」から来ている。
事件の真相が語り手ごとに異なり、結局何が真実かはわからない。読者にすっきりとした感動を与える気などさらさらない。むしろ「混沌」をそっくりそのまま、お皿に盛ってこちらに差し出してくる。どう飲み込むかは、読者に丸投げだ。
物語は、多くの人物の視点で語られる。最初は文芸誌の編集長・木戸の視点。だが次章では小説家・長岡友梨奈の視点に切り替わり、木戸の語った「真実」が、実は歪んだ主観であることが明かされる。語り手は章ごとに入れ替わり、それぞれが自分にとっての真実を語る。ただし、その視点はどこかしら偏っている。
「YABUNONAKA―ヤブノナカ―」は性加害や社会的な抑圧、女性の生きづらさ、そして男性のマッチョイズムなど、極めて意識的なテーマを多く含んでいる。
だが説教臭さは一切ない。むしろ、それぞれの立場における「当事者意識の差異」が次々と露呈し、読者は自らの無関心を突きつけられることになる。
特に印象に残ったのは、女性同士の対立だ。性加害をめぐって「もっと怒るべき」と言う人と、「受け流すこともひとつの対処」とする人。その価値観のズレが摩擦を生む。社会の歪みは、加害者と被害者の関係だけではなく、傍観者の態度によっても広がるのだと痛感する。
誰が正しくて誰が間違っているのか、最後までわからない。ただ、終盤に登場する語り手・リコの存在が、とても鮮やかだった。彼女は直接的な被害者でも関係者でもない、少し距離のある立場で物語を語る。そしてその視点が、他の語り手たちの抱える痛みや正義を、やわらかく包み込んでゆく。
リコという少女の度量の大きさが、この混沌とした「YABUNONAKA―ヤブノナカ―」という物語に、ほのかな救いをもたらしている。混乱の中に差し込まれる、小さな光のような希望だった。
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性加害の告発が開けたパンドラの箱――
MeToo運動、マッチングアプリ、SNS……世界の急激な変化の中で溺れもがく人間たち。対立の果てに救いは訪れるのか?
「わかりあえないこと」のその先を描く、日本文学の最高到達点。
「変わりゆく世界を、共にサバイブしよう。」――金原ひとみ
文芸誌「叢雲(むらくも)」元編集長の木戸悠介、その息子で高校生の越山恵斗、編集部員の五松、五松が担当する小説家の長岡友梨奈、その恋人、別居中の夫、引きこもりの娘。ある女性がかつて木戸から性的搾取をされていたとネットで告発したことをきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の日常が絡みあい、うねり、予想もつかないクライマックスへ――。
性、権力、暴力、愛が渦巻く現代社会を描ききる圧巻の1000枚。
『蛇にピアス』から22年、金原ひとみの集大成にして最高傑作!
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