iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に忘れっぽい私の読書録。最近はもっぱらAudibleで聞く読書

「1984」全体主義の恐怖はぬるま湯に使ったカエルのごとくやってくる

ジョージ・オーウェル の「1984」を読んだ。

 

帯に「むかし読んだ時よりもむしろ怖い」と書いてあったが、本当にそのとおり。

と言うか読んだ記憶自体「二重思想」だったのかもというくらい、何も覚えていなかった。

 

さすが20世紀の最高傑作。

 

これを1949年に35年後の「近未来」として描いている先見性に震える。

 

逆に、現在は約75年後の2025年なわけだけれども、街中に張り巡らされたテレスクリーンや思想警察は、もしかしてあと35年後くらいには十分あり得る気がする。

 

私、最初はなんとなく自分を「主人公ウィンストン」と同じ「党員」だと位置づけて読んでいたけど、読み進めていくにしたがって「違う、私は「プロール(労働者層)だわ」と気づいてしまい、またさらに恐ろしくなる。

 

主人公ウィンストンたちは、体制に疑問を持ち極めて慎重に反体制運動を行おうとするのだが、より劣悪な環境にいるプロールたちは、「党本部が自動生成した娯楽」を楽しみ「何の疑問も持たず」享楽的生きるのだ。

 

労働者の象徴として党が何かの機械で作った、どうでもいいような歌詞の歌を歌いながら洗濯物を干すおばさんが登場するのだけど、彼女はたくさんの子どもを産み育て、働き詰めに働いて、岩のような大きなおしりで、それでも高らかに楽しそうにその歌を歌い上げる。

 

党がなにかの機械で作った、というところにAI生成を強く感じるし、「何も知らない」無知こそが幸せの鍵、というのは今すでに始まっているのかもしれない。

 

難しいことを言ったり、政治的なポリシーを語ることを控え、というかポリシーを持たないことが当たり前になっている私達。

もはや、思想の自由なんてないディストピア小説の中に片足突っ込んでいるのかも。

 

最後に、「付録」としてついている『ニュースピークの諸原理』というのもすごくおもしろい。

ニュースピークとは、現在の英語をベースに極端に「簡単に」した言語。

 

たとえば、「良い」という言葉があれば、「悪い」ということは「良くない」と表せばいいから、不要。

 

といった感じでどんどん言葉を削ぎ落として行くのだが、その中で「言葉がないことで思想ができなくなる」一文にはなるほどと唸った。

 

確かに、自分の気持ちを表す言葉がないということは、その気持はなかったものにされるわけで、使える言葉が少なければ少ないほど、複雑なことは何一つ伝わらなくなるのだ。

 

・・・これ、盛んに「言語化」しようと言われることにつながっているな。

 

本の中には、「過去は記憶の中にしか存在しない。故に記憶が変われば過去も変わる」という二重思想という考え方もでてくるのだけど、よくよく考えると今でもあらゆる場面でそうしたことは行われているのかもしれない。

 

私達は、すぐ忘れるから。そして、安易に回答にを聞いて納得するから。

 

きちんと記憶と記録と思考はしなくてはいけない。その自由があるうちは。

 

今日は祝日で時間があるもんだから、あらためてじっくりこの本について色々知ることができた。(先人がたくさん動画だのサイトを作ってくれているのだ。…ほら、また安易に回答をもとめる)

 

それに、たくさんの版や漫画家、映画化されていて、それを見るのも楽しい。

私が今回Audibleで選んだのはKADOKAWAから改めて出した新訳版。

どの表紙も「1984」の文字を大きくレイアウトしているが、この版の表紙は違う。個性的だ。

 

そして、私ったらお恥ずかしいことに村上春樹の「1Q84」がこれにかかっていることに、今更気づいてしまった。

 

え?みんな知ってて読んだの?きゃー私知らずに読んでたよ。

 

 

 

 

 

1984 (角川文庫)

ディストピア小説の最高傑作。圧倒的リーダビリティの新訳版!解説・内田樹

1984年、世界は〈オセアニア〉〈ユーラシア〉〈イースタシア〉という3つの国に分割統治されていた。オセアニアは、ビッグ・ブラザー率いる一党独裁制。市中に「ビッグ・ブラザーは見ている」と書かれたポスターが張られ、国民はテレスクリーンと呼ばれる装置で24時間監視されていた。党員のウィンストン・スミスは、この絶対的統治に疑念を抱き、体制の転覆をもくろむ〈ブラザー連合〉に興味を持ちはじめていた。一方、美しい党員ジュリアと親密になり、隠れ家でひそかに逢瀬を重ねるようになる。つかの間、自由と生きる喜びを噛みしめるふたり。しかし、そこには、冷酷で絶望的な罠がしかけられていたのだった――。
全体主義が支配する近未来社会の恐怖を描いた本作品が、1949年に発表されるや、当時の東西冷戦が進む世界情勢を反映し、西側諸国で爆発的な支持を得た。1998年「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」に、2002年には「史上最高の文学100」に選出され、その後も、思想・芸術など数多くの分野で多大な影響を与えつづけている。
解説・内田樹

次に読みたい本

1984 (English Edition)