恩田陸の「月の裏側」を読んだ。
シリーズを逆流して読み、ようやく第1巻にたどり着いたわけだが、えーーーって感じ。
SFやん、ホラーやん!3作目の世界感と全く違う。
物語は、街全体を包み込むように忍び寄る正体不明の“何か”によって始まる。その“何か”は生命体なのか、意識なのか、よくわからないままに、街の人々が次々と消え、また戻ってくる。しかし、戻ってきた彼らは本当に「元の彼ら」なのか。姿形は同じでも、まるで誰か別の何かに身体を乗っ取られているような違和感がある。
この奇妙な現象に対峙するのが、恩師とその娘、新聞記者、そして多聞の4人。事件の謎を追いながら、気がつけば街に残されたのは彼らだけ。テレビも電話も通じない、孤立した空間。極限の状況であるはずなのに、どこか“いつものテンション”を崩さない多聞。その様子に引きずられるように、他の登場人物たちも冷静さを保ち続ける。このあたり、妙にリアルで不気味だ。
「月の裏側」は、ミステリというよりも完全にSFだと感じた。共通の意識に向かって進化していくという描写は、アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」に通じるものがある。ただし、あちらが“未来に生きる集団”の話だとすれば、恩田陸の描くのは“今、隣にいる話の通じる誰かが変わっていく”という生々しい恐怖。静かでねっとりとした怖さがじわじわと染み込んでくる。
それにしても、シリーズを逆流しながら読んで第1巻にたどり着いたのだが、まさかこんな始まりとはね。
ところで、多聞という人物について。のほほんとした語り口で、人当たりもよくて、確かに“愛され体質”なのだが、「僕は人を愛するのではなく、愛されるタイプ」なんて言われると、ちょっとモヤっとする。モテるのはいい。でも、あまりに無自覚!
反省してほしい……
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九州の水郷都市・箭納倉。ここで三件の失踪事件が相次いだ。消えたのはいずれも掘割に面した日本家屋に住む老女だったが、不思議なことに、じきにひょっこり戻ってきたのだ、記憶を喪失したまま。まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも?事件に興味を持った元大学教授・協一郎らは〈人間もどき〉の存在に気づく……。
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誰もいない街に一人、といえばこの漫画。私、この漫画まごうことなき傑作だと思う。


