中山 七里 の「鬼の哭(な)く里」を読んだ。
タイトルからして、横溝正史的なドロドロした因習ミステリを期待して読み始めた。
山間の寒村、閉ざされた人間関係、そして“鬼”という不穏な言葉。
これはもう、血と怨念が渦巻く世界が待っているに違いない――
確かに、物語は地方の因習に囚われた事件を軸に展開していく。
だが、最後の最後でその期待は見事に裏切られる。
さすが“どんでん返しの中山”。(そんな異名があるのかは知らんけど)
物語は、戦後すぐの時代に起きた大量殺人事件から始まる。
一人の男が暴走し、村人を次々と殺していく――その様子は、まるで『八つ墓村』のような凄惨さ。
だが、そこで終わらない。
時代は令和へと移り変わり、事件の影はなおも村に残り続けている。
まるで呪いのように。
しかも、舞台はコロナ禍の真っ只中。
マスク、消毒、外出自粛――そんな言葉が日常を支配していた頃。
東京から来た人が白い目で見られ、時には露骨に避けられる。
そんな空気が、現実にあった。
今振り返れば、あの頃の私たちは少しおかしかったのかもしれない。
恐怖と不安が、理性を簡単に吹き飛ばしてしまっていた。
この物語では、東京から地方に移住してきた男・麻宮が、
徐々に村の人々から距離を置かれ、やがて集団ヒステリーのような空気の中で迫害されていく。
その過程が、じわじわと描かれていて、読んでいて息苦しくなるほどだ。
語り手は、麻宮の隣に住む中学生・ゆうや。
彼は麻宮に強く惹かれ、都会的な彼の存在に憧れを抱く。
一方で、自分の住む田舎の人間関係や価値観には嫌悪感を抱いている。
父親を馬鹿にし、「絶対にこの村から出てやる」と心に決めている少年だ。
だが、物語が進むにつれて、ゆうやの語りは信頼が置けなくなってくる。
彼の視点を通してしか物語は語られないが、その視線が自分の都合でねじまげられたら?
そして迎えるラスト。
“鬼”なんて、もうどうでもよくなる。
そこにあるのは、ただ静かで、少し切ない余韻だけ。
鬼が哭(な)く夜は死人が出る――まさか、令和になってまで。終戦直後、中国地方の寒村で起きた惨殺事件。姿を消した犯人の呪いにより、今も犠牲者が出ているというが……。驚愕の呪いの真相とは!? “どんでん返しの帝王”が因習と伝奇の本格推理を現代に甦らせる! 圧巻の結末(ラスト)!!
次に読みたい本
因習という意味ではなかなかこれを超えられる作品はない。
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