iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に忘れっぽい私の読書録。最近はもっぱらAudibleで聞く読書

『もう逃げない。』──あの事件の「真実」は本当に語られたのか?

林眞須美死刑囚の長男による手記『もう逃げない。』を読んだ。
いろいろと考えさせられる一冊だった。

 

和歌山毒入りカレー事件が起こったのは1998年。もう27年も前のことになる。
当時、働き始めたばかりだった私は、この事件を何度かテレビ番組で見た程度だった。
「なんてふてぶてしい女だ」──そんな印象を持った記憶がある。

今振り返ると、当時の報道の苛烈さがよくわかる。
日本中が報道を鵜呑みにし、「犯人は彼女しかいない」と信じて疑わなかった。
彼女が4人の子どもの母親であることなど、誰も気に留めていなかった。
あのとき、私は子どもたちのことを少しでも考えただろうか?

 

彼女の逮捕によって、私たちは「わかりやすい解決」を与えられた。
そして事件は、戸棚の奥にしまい込まれ、二度と引っ張り出されることはなかった。
今回、この「加害者家族の視点から描かれたドキュメンタリー」を読んで、心が大きく揺さぶられた。

 

あの激しい取材は、罪が確定する前からすでに始まっていたのか?
あらかじめ犯人が決められ、それに合わせて捜査が進められた可能性は?
・・・もしかして、冤罪だったのではないか?

 

仮に、彼女が本当に犯人だったとしても、子どもたちには何の罪もない。
しかし、4人の兄弟は両親の逮捕とともに児童相談所に送られ、「毒入りカレー事件の犯人の子ども」として生きていかねばならなかった。

激しいいじめ、就職や結婚の困難──

犯罪加害者家族が背負う過酷な現実が、この本では赤裸々に語られている。

 

彼は、両親が保険金詐欺を生業としていたことを認めている。
派手なお金の使い方、近隣住民とのトラブル、子どもを深夜までカラオケに連れ回すなど、確かに周囲から浮いた存在だったようだ。
彼自身も、「疑われたのは身から出たサビ」と語っている。
それでも、読み終えた今、私は思う。
やはり、冤罪の可能性があるのではないか、と。
テレビで「毒婦」というテロップとともに映し出された彼女には、無実を訴える夫と息子がいる。

一度疑いをかけて逮捕したら、「間違いでした」とはなかなか言えないのかもしれない。
でも、もし本当に無罪を示す証拠があるのなら、勇気を持って覆してほしい。
日本は、その程度の法治国家であってほしいと願う。
少なくとも、再調査や再審は行われるべきだ。

ノンフィクションの力はすごい。
一冊の本が、忘れかけていた事件を、そしてその裏にある人間の人生を、私たちに突きつけてくる。

 

もう逃げない。

21年前の朝、目が覚めたらぼくは「殺人犯」の息子になっていた――。いじめ、差別、婚約破棄……迷い、苦しみながら、それでも強く生きていく。事件以来21年間、親、そして世間から架せられた重い「十字架」を背負い続ける和歌山カレー事件、林眞須美死刑囚の長男が初めて明かす「罪と罰」、そして「生きること」の本当の意味。

次に読みたい本

本ではないが昨年、長男視点からのドキュメンタリー映画が作られていた。

武田砂鉄の映画レビューがとても良いので、シェア。

 

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