おちかが嫁に行ってしまい、なんとなくやきもちを焼いていた小旦那・富次郎。そんな彼もようやく胸のつかえが取れ、おちかの夫・勘一とも以前のように付き合えるようになった――そんな変化が描かれる第八巻。
今回は「賽子と虻」「土鍋女房」「よって件のごとし」の三編。どれも長編並みの分量で、読み応えたっぷり。
🐝「賽子と虻」:神様のサイコロと、笑えなくなった少年の物語
神様の使いであるサイコロが話し出すシーンがなんとも可愛らしい。語り部は、辛い経験を重ねて笑うことができなくなった少年「もちたろう」。
彼の姉は、やっかみから不運にも「あぶ(虻)」に憑かれてしまう。狐や蛇ならまだしも、虻って……?
この虻の神様、なんと「馬鹿だから」叶えていい願いと悪い願いの区別がつかない。でも、神様だから力はある。
村人たちは最初こそ虻の神を恐れていたが、やがて「呪いの代行者」として虻を利用し始める。
100回血を吸わせることで、憎い相手に虻を憑かせることができるというのだ。
姉を救うため、もちたろうは無茶をしてこの世から弾き飛ばされ、神様の旅籠でしばらく下働きをすることに。
その幻想的でどこか楽しげな旅籠の描写が美しい。むしろ現世に戻ってきてからのほうが、もちたろうは不幸そうに見える。
変わり百物語が、彼を救うきっかけになればよい。
🍲「土鍋女房」:土鍋に収まる女房って?
タイトルを見て「一体どんな女房だ?」と思ったが、まさか本当に土鍋の中にキュッと収まっているとは。もちろん、魍魎の匣じゃあるまいし、普通の人間がそんなところに収まるわけがない。これはあやかしの話。
川の神様(ヘビの女神)に、船頭をしていた兄を取られてしまった悲しい物語。
けれど、語り手「とびこ」のユーモラスな語り口が、物語に独特の軽やかさを添えている。
🧟♂️「よって件のごとし」:江戸時代の並行世界ゾンビ譚
表題作は、江戸時代を舞台にした並行世界のゾンビもの。
もちろん「ゾンビ」という言葉は使われておらず、「ひとでなし」と呼ばれている。だが、動く死体であり、噛まれると感染するという設定はまさにゾンビそのもの。
物語の終盤、村を捨てて別世界へ逃げ込むことで「ひとでなし」から逃れる。
ほとんどの人が助かったのはよかったが、捨ててきた世界は今どうなっているのだろう……と、ふと心配になる。
どの話もなかなかのボリュームで、正直もう紙の本では読み切れないかもしれない。
📚オーディブル、あっぱれ!
老人が語る、村を襲う「ひとでなし」の恐怖とは――三島屋シリーズ第八弾!
江戸は神田三島町にある袋物屋の三島屋は、風変わりな百物語をしていることで知られている。
語り手一人に聞き手も一人、話はけっして外には漏らさず、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」これが三島屋の変わり百物語の趣向である。
従姉妹のおちかから聞き手を受け継いだ三島屋の「小旦那」こと富次郎は、おちかの出産を控える中で障りがあってはならないと、しばらく百物語をお休みすることに決める。
休止前の最後の語り手は、商人風の老人と目の見えない彼の妻だった。老人はかつて暮らした村でおきた「ひとでなし」にまつわる顛末を語りだす――。
次に読みたい本
ゾンビものはあまり得意ではないので、ゾンビと名のつくタイトルはこれしか思いつかなかった。