宮部みゆきの「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 」を読んだ。
おちかからいとこの富次郎へと聞き手が代わり、語られる話の内容も変化してくる。「若い女の子には聞かせにくい」類の話も紛れ込み、百物語の場が少しずつ様変わりしていく様子が興味深い。
これまで百物語の聞き手を務めていたおちかは、自身の暗い過去を振り払うために必死だった。それに対して富次郎は、そこまでの覚悟や切実さは持ち合わせていない。
その軽やかさはある意味魅力でもあるのだが、どうしても「若旦那の余興」といった印象を拭いきれない。
そのせいか、百物語の斡旋をしている口入屋・蝦蟇仙人からは皮肉めいた嫌味を度々浴びせられている。
それでも、最終話である表題作「黒武御神火御殿」では、彼がしっかりと怪異譚に立ち向かう姿が描かれる。
まだ経験の浅い聞き手ながら、圧倒的な怪異を前にして「おちかもにげなかったんだから」と逃げずに向き合うその姿勢には成長が感じられ、微笑ましい。
どんだけおちか好きなんよ。
富次郎はおちかのような切実さは持たないものの、百物語を通じて確かに変わりつつあるのかもしれない。
この話は、ハリウッドで映画化しても面白いのではないかと思うほど壮大なスケール感がある。
たとえば、「ふすまが50枚の大広間」。そしてそこに描かれた襖絵の火山が実際に噴火をする。スケールデカすぎて、映像化してもらえると助かる。
それにしても先見えないほどの長く薄暗い廊下に減らないロウソクが一定の間隔で置かれている感じ・・・ホラー映画としても充分に成立しそう。
表題作はもちろん面白かったが、「泣きぼくろ」も印象に残る作品だった。
泣きぼくろがまるで虫のように女性に取り付き、ひどい行為をさせるという恐ろしい話。しかも、因縁があってかないのかもわからないのだ。ただ、運悪く取り憑かれたのかそれともあやかしにはあやかしなりになにかの理由があったのか・・・
最後、泣きぼくろをおっかさんが退治する場面があるのだが、こ、こぇぇ~~
と震えた。
物語全体としては決して「嫌な終わり方」ではないものの、母が女になった瞬間でもあったのだろう。余韻は強烈だった。
相変わらずのボリューム満点な読書だった。
宮部みゆきのライフワーク、語り手を新たに新章スタート!
文字は怖いものだよ。遊びに使っちゃいけない――。江戸は神田にある袋物屋〈三島屋〉は、一風変わった百物語を続けている。これまで聞き手を務めてきた主人の姪“おちか”の嫁入りによって、役目は甘い物好きの次男・富次郎に引き継がれた。三島屋に持ち込まれた謎めいた半天をきっかけに語られたのは、人々を吸い寄せる怪しい屋敷の話だった。読む者の心をとらえて放さない、宮部みゆき流江戸怪談、新章スター
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