吉本ばななの『下町サイキック』を読んだ。
吉本ばななといえば『キッチン』しか読んだことがなく、ずっとそのイメージに囚われていた。でも、今回のようなSFチックな話も書くなんて思ってもみなかった。
もっとずっしりと重たく、距離のある物語かと思っていたのに、実際に読んでみるととても読みやすくて面白かった。まさに「読まず嫌い」だったと気づく。
主人公の少女は両親の離婚を経験し、その後すぐに父親は若い女性と付き合い始める。それが原因で父親は自殺未遂を起こし、町中の人々がその顛末を知っていて、彼女は「かわいそうな子ども」として扱われる。
それでも、彼女には母親や近所のおじさんなど信頼できる大人がいて、信頼できる大人がいて本当にまっすぐ真っ当に成長している。
友おじさんのような存在――家族でもなく、親よりは若く、それでも兄弟よりは年長の人――が子どもの人生に関わることは、とても大切だと思う。遠すぎず、近すぎず、ね。
物語は下町人情だけでなく、主人公に備わった不思議な力によって彩られていく。
といっても、その力は「人の考えていることがなんとなくわかる」「モヤのように見える」といったささやかなもの。でも、不思議な話が好きな私にとっては、それがとても嬉しい要素だった。
あとがきで作者が「この話の本当に伝えたかったこと」について語っている。
それがピンと来なかった人は、この本を手元に置いて、少し時間を置いてから読み返してほしい、と書かれていた。
私はただ楽しく読んでいたので、すぐにはその意図を掴めなかったけれど、改めて考えてみた。
- 下町の良さが消えてしまうことへの寂しさ。
- 川の流れのように人は交わり、また離れても、最終的には皆が海へ向かっていく。それが生きるということ。
- 離婚した男女が、ある時期を共に過ごした「友達」のようになっていくのは、ひとつの良い結末なのかもしれない。
- ただ生きているだけで、人の存在は尊い。
もしかすると、吉本ばなながこの物語で本当に伝えたかったことは、「下町の絶妙な距離感が失われていくことへの惜しみ」なのかもしれない。
「友おじさん、どうして人は色とかお金とかに目がくらむの?」
「人はいつだって、今の人生をとにかく変えたいと思ってるからだよ。」
下町で生まれ育ったキヨカは幼いころから、目に見えないものが見える能力を持っていた。中学生になって、ご近所に住む友おじさんが運営する「自習室」の空間を、その力で清めるアルバイトをしていた。そんなある日、母と離婚して家を出た父が、自殺未遂を図ったという連絡が入って――。人と違う能力を持つ少女が世界を生き延びるための、暮らしの知恵が詰まった最新長編!
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