iCHi's diary~本は読みたし、はかどらず~

主に忘れっぽい私の読書録。最近はもっぱらAudibleで聞く読書

「喪を明ける」哀しみを越えるということ

太田 忠司の「喪を明ける」を読んだ。

初読みの作家さんだが、勝手にミステリと思い決めて読み始める。

・・・近未来SFだった。

 

おそらく、現代よりほんのちょっと未来の日本。

疫病、震災、それに連なる発電所の被災などで「東京に人が住めなく」なり、著しく国力が衰退してしまっている。アメリカの51番目の州になるみたいな話まででている。

 

疫病も震災も記憶に新しいが、物語はその震災で一人娘を亡くし、妻とも離婚した優斗が登場する。

 

今よりちょっとだけ未来なので、医療は発達し認知症の予防などもできるようになっているが、それでも万全ではなく、優斗は娘を亡くしてしまう。

 

一方、優斗の父は靴職人として働いているが、妻が自ら安楽死を選んだことに深く傷ついている。

 

いつまでも死んだ人を思い続けている二人が同居し、出会う人達との交流で少しずつ哀しみの底から浮上してくる。

亡き人を忘れるわけではないけれど、どうしても後悔ばかりがよぎって思い出すたびに苦しんでいた父子が、ゆっくりと回復していく、まさしく「喪を明ける」物語。

時期が来て勝手に喪が明けるのではなく、自ら一歩進んで「喪を明けた」のがよく分かる。

 

生きている限りいつかは誰かとの別れを経験しなければならない。

大切な人との別離にいつまでもとらわれず、ゆっくりでも悲しみを手放す。
難しいけれど、大きな川の流れに身を委ねるように自然なことでもあるだろう。

 

募金がコード読み込みで行えたり、募金のお礼が壁紙プレゼントだったりと技術的には全く今でもできるんだけど、当たり前のように行われているのが近未来だなーと。

 

ちなみに近未来では、AIやロボットができる仕事を人間に給料を払うために続けているらしいですぞ。

 

でも「近未来SF」なのはちょっとしたスパイスで、この本には人生のレッスンが描かれている。お互いにコミュニケーションが下手な二人に幸あらんことを。

 

 

喪を明ける (徳間文庫)

妻に先立たれた父・卓弥と、その息子で、妻子と別れ実家に戻ってきた優斗の八年ぶりの同居が始まる。靴職人でぶっきらぼうの父と、今は定職に就かず様々なアルバイトで暮らす息子の共同生活は、ぎこちなく、気まずい。新たな出会いと、それぞれが抱える喪失感。「わからないまま生きていく」――。大地震、疫病、変災を経て、AIや移民の問題を抱える近未来の日本を舞台に、理不尽と向き合あおうと模索する人間を描いた物語。

次に読みたい本

 

ずっと喪 (光文社文庫)

奇しくもこの本と真逆なタイトルの本を見つけた。

レビューを読むと読後のすっきり感がすごいキテレツなショートショートらしい。

なんそれ!?読んでみたい。