櫻田智也の『六色の蛹』を読んだ。
去年の「このミステリーがすごい!」第10位にランクインしたこの本、タイトルの意味がとっつきにくく感じて後回しにしていた。(もちろん、読み終わった今ではこのタイトルこそがしっくりくるのだけれど!)
本作に登場する令和の“とぼけた切れ者”名探偵、エリ沢泉は、気づけば事件を解決してしまう不思議なキャラクターだ。
申し訳なさそうに「すみません」と恐縮しながら、ときに涙ぐみながら推理を進めていく。
彼の「悪い想像」は、普通なら気にも留めないようなことにまで広がってしまい、その結果、誰も気づいていなかった謎を暴いてしまうのだ。
そういえば「エリ沢泉」という響き、どこかで聞いたことがあると思ったら、シリーズものの第3作目だった。
第1作の『サーチライトと誘蛾灯』も「このミステリーがすごい!」にランクインしていて、そういえば読んだ記憶がある。前作もなんとも謎な探偵だった。
さて、今回の作品では、各章に色の名前がつけられている。
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「白が揺れた」
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「赤の追憶」
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「黒いレプリカ」
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「青い音」
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「黄色い山」
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「緑の再会」
この構成が、「六色の蛹」というタイトルの意味につながっているのだと気づいたとき、なるほど!と納得した。
それぞれの章では個別の謎解きが展開されるものの、それらがゆるやかに結びついていく構成が見事だ。
そして何より、探偵・エリ沢泉というキャラクターが魅力的だった。
推理の進め方、言葉の選び方、そして少し頼りなさげなのに鋭い直感を持つ「愛され探偵」がこの作品を印象深いものにしている。
物語全体を通じて、色彩が謎と結びつくことで生まれる世界観が美しく、ミステリーとしての緻密な構造と、狩猟、埋蔵物、演奏配信などに詳しくなれるミステリー。
そうそう、エリ沢泉は昆虫大好きなので例えて言うなら「ファーブル探偵」てきな感じだ。ただし、犯罪昆虫学はでてこないのでご安心を!
昆虫好きの優しい青年は、
人の心の痛みに寄り添う名探偵
日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を受賞した『蝉かえる』に続く、
〈エリ沢泉〉シリーズ第3作!
昆虫好きの心優しい青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。行く先々で事件に遭遇する彼は、謎を解き明かすとともに、事件関係者の心の痛みに寄り添うのだった……。ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件の謎を探る「白が揺れた」。花屋の店主との会話から、一年前に季節外れのポインセチアを欲しがった少女の真意を読み解く「赤の追憶」。ピアニストの遺品から、一枚だけ消えた楽譜の行方を推理する「青い音」など全六編。日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を受賞した『蝉(せみ)かえる』に続く、〈エリ沢泉〉シリーズ第3作!
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