薬丸岳の「Aではない君と」を読んだ。
少年犯罪とその更生をテーマにした骨太の物語だった。
この人の小説は「少年犯罪」という重厚なテーマが多そうで、心して読まないと沈んでしまいそうと、今まで手を出せなかった。
タイトルは、犯罪加害者の未成年の呼称『少年A』ではなく、翼という名前で呼振ことができる人物、つまり翼の父の言葉から来ている。
人は、許しがたい犯罪の被害者にも加害者にもなりうる。
私たち親は、子どもたちが悪い人間に悪いことをされないかと、結構マジで身構えて生きている。だが、自分の子どもが加害者になることを心配する人はあまりいないだろう。
もし自分の家族が加害者になった場合どんな気持ちになるのか、考えたくもない、信じている。でも、自分の息子が殺人容疑で逮捕されたところからこの物語は始まる。
フィクションなのに、こんなにも苦しいのかと思う。
苦しくて、でも苦しいなんて言えなくて、父も母もそれまでの生活すべてを失ってしまう。
人を殺めてしまった翼を最後まで見捨てずに、親として養護する事は簡単ではない。
だが突き放すことも目をそらすこともできない。
たとえ少年院からでてきても、息子が安寧に生きていくことは難しい。
父親だからこそ漏らす「それでも生きていてくれてよかった」が切ない。
そして、嫌な人物として描かれていた被害者の父の慟哭にも涙を持っていかれた。
途中、この翼という少年がとんでもないサイコパスで、親たちが信じている以上にひどいことを考えていたらどうしようと怯えながら読んだ。
最後の被害者に対する号泣は彼の更正の第一歩だろう。
取り返しのつかないことへの謝罪は消して終わらない。
彼は一生、命を奪った自分の罪の重さを意識して生きなければならない。
翼の両親は離婚してしまっているが、それでも息子のために協力し会う様子はいろいろなことを考えさせられた。
同級生の殺人容疑で逮捕された14歳の息子。だが弁護士に何も話さない。真相は。親子は少年審判の日を迎える。吉川文学新人賞受賞作
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こちらは実話の方の少年Aの両親の話。あれから30年以上経ったけれど、穏やかな日常は送れているのだろうか。