ソン・ウォンビンの「三十の反撃」を読んだ。
本屋大賞翻訳小説部門第1位と聞いて、期待と読みこなせるかの不安をおぼえていたが、やっぱり本屋大賞って裏切らないなー
タイトルの三十は年齢のこと。
二十代の後半に誰もが覚える、自分に対する期待と失望を往復する感じがみずみずしく描かれていた。
作中に出てくる韓国の独自文化も、話の腰を折らない程度に注釈が加えられていて読んでいて面白い。
例えば日本では刑務所暮らしのことを「臭い飯を食う」なんて言うけど韓国では「豆の入った飯」と言うらしい。
似ているけどやっぱり違う、そんな国、韓国。
国は違ってもこの年代の若者が感じる気持ちにはそんなに違いがない。
ただ、日本と違って入試も就職もアパートを借りるのもより大変そうだ。
そういえば、怖そうでまだ観ていない「パラサイト半地下の家族」という映画があったが、この本の主人公ジヘも半地下に暮らしている。
どうやら、生活水準が低くなると半地下になるみたいなのだが、不思議。
半分だけ地面に埋めると、そりゃ日当たりとかも悪くなるし家賃が安くなるのはわかるけど、そもそも地下なんか作らなければよいのでは?
あさはかな私はおもうのだが、何か理由があるのかなー
とにかくジヘは「頑張っているけど報われない」と思っていて、何者かになるつもりで努力をしていた大学生の頃はよかったが、その努力の終わりが見えなさに苛立ちを感じている。
ジヘとギュオクの恋も少しだけ絡んでくるけど、物語の主題は「何者でもない自分をどう処するか」というジヘ達の成長物語でもある。
昔、糸井重里が「成人は三十歳くらいでいいんじゃないか」と言っていたけど本当にそうかも。
まさしく、三十歳ってあらゆる可能性を選べた若者から、どう生きるか道を定めた大人になる年齢かもれない。
ジヘの暮らしは、物語が終わる頃にはちょっとだけ上向いている。
無いものを望んでイライラしていた頃に比べ、自分ができることを自分の責任でやることにきめた、大人になったジヘ。
最後にギュオクが現れるのもとても良い終わり方だと思う。
三十歳になった人は、自分はもう若くないと思っているかもしれない。
でも、まだ始まったばっかりなんだよ人生は。
というか、ホント大人になりたてだがら。
まだまだ自分の可能性を信じてあげてほしい。
あの頃に戻れるなら、もう一度やり直したい。(いろいろ)
2022年本屋大賞翻訳小説部門第1位!
ベストセラー『アーモンド』の著者が放つ、すべての人に勇気をくれる傑作。
『アーモンド』が人間という存在そのものへの問いかけだとすれば、『三十の反撃』は、どんな大人になるかという問いへの答えである。
ーーーソン・ウォンピョン
1988年ソウルオリンピックの年に生まれ、三十歳になった非正規職員のキム・ジへ。
88年生まれに一番多い名前「ジヘ」と名付けられた彼女はその名の通り、平凡を絵に描いたような大人になっていく。
大企業の正社員を目指すジヘの前に現れたのは、同じ年の同僚ギュオク。
彼の提案する社会への小さな反撃を始めることになったジヘは、自信を見つめなおし、本当にしたかったことを考えるように。
そして、ついに「本当の自分」としての一歩を踏み出すことになるーー。
世の中という大きな壁と闘うすべての人に贈る、心温まるエール!第5回済州4・3平和文学賞受賞作品。
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この本もとてもよく目につくよね。同じ作者と翻訳者の組み合わせ(タイトル画も同じ人っぽい)