長井短(ながいみじか)の「ほどける骨折り球子」を読んだ。
タイトルも著者名も表紙のイラストもすべて「なんだか普通じゃない感じ」だ。
初めて読む作者「長井短」はモデル、俳優、そしてエッセイや小説も書くマルチな才能が光る女性。筆名は落語の「長短」からとったそうで、このエピソードを聞いただけで「好きー」ってなっちゃう。
あまりに独特なこの本を読みながら、「長井短」って一体どんな人だろうと考えていた。
読後、つらつらと検索したら、作者の画像がイメージピッタリだった。男女を取り違えてたことを別にすれば。
いやーてっきり男の人の作品だと思ったんだよねー。
それにしては「球子の怒り」の解像度がすごいと思ってたんだけど、作者の性別関係なく、この「怒り」と「違和感」の炎を胸の中できちんと燃やし続けられることが長井短の物書きとしての凄みなのかもしれない。
とにかくタイトルから一体どんな話か全く想像できないので、簡単にあらすじを描いておくと、主人公の「僕」は妻の球子のことが大好きだ。
だが、球子と付き合い始めてから何度となく「球子は自分をかばって骨折をする」
軽い違和感を感じつつも、「球子に護られる不甲斐ない僕」を反省していたが、ある日勤め先で横領の疑いをかけられる。
身に覚えもない疑いだが、数日の間出社禁止となり、怒り、落ち込んでいるのだが、その冤罪の告発電話をしたのは球子だったことがわかり、愕然とする。
許せない、なぜこんなことを?
苦悩しきった僕に球子は「あなたが落ち込んだところを励ますためだよ」といけしゃあしゃあと言い放つ。
球子、ひどい。でも球子、すごい。
幼い頃から「女だから」と押し付けられてきた理不尽や違和感に、一切妥協をしない。
この夫婦がどんなふうに折り合いをつけるか、ぜひ結末を見守ってあげてほしい。
併録されていた「存在よ!」もめちゃくちゃおもしろかった。
売れないモデルのキヌはある日、幽霊お菊の影武者?スタント?の役を射止める。
ところが、現場での扱いは最悪で、みんなでお祓いに行くときも忘れられて読んでもらえず、そのせいか「本物の幽霊」が見えるようになる。
最初は恐怖のあまり拒絶と無視を決め込んでいたのだが、幽霊の思ったよりフレンドリーな様子と、自分同様にみんなから見られていない状況に、つい仲良くなってしまう。
「勝手に怖がるな!」という幽霊の主張が面白い。
幽霊は出るけど、ホラーではない少し不思議なお話というところか。
自分の「弱さ」と「強さ」に後ろめたさを抱く男女の"守りバトル"、その結末は?芸能界でも活躍中の新鋭作家・長井短の傑作小説集! 映画現場の「見えない存在」を描く「存在よ!」併録。
次に読みたい本
球子といえばこの人