武田砂鉄の「なんかいやな感じ」を読んだ。
おもしろエッセイと思い込んでよんだら、案外硬派な内容で驚く。
令和になって振り返った、近未来ならぬ近過去としての「平成」に起こったことを自なりに振り返る内容。
私より10年年若い彼が「13歳の時、酒鬼薔薇事件の犯人と同じ年齢だった」と回想する章を読み、10歳お姉さんとしてその頃の自分が何をしていたが思い出す。
あの事件の時、私は就職活動で初めての上京をして慣れぬ人混みの駅キオスクで、棚に刺された新聞の特大の文字で事件を知った気がする。
今でもあの最大級に大きな一面の文字フォントと、実際に見たはずのない校門の情景をセットで思い出す。
東日本大震災が起こった日。
彼は編集者として働いており18時の宅急便の受付締切を気にしていた、そんな場合じゃないと悟れていなかったのだ。
私は、ちょうど会社のテレビ画面で国会中継を見ていて、なんだか大変なことが起こったようだと思いつつ、イオンに買い物に行き、そこでもざわざわとしていたが普通に買い物をして帰ったことを思い出す。
単身赴任中の夫とその後数日連絡がつかなくなるのだが、そんなことを知る由もなかった。
彼の回想にあわせて自分も当時を振り返る。
私にとっての平成は「ちょうど大人の始まり」と同時だった。
どのくらい一生懸命生きたのか、それともぼんやり生きたのか?
驚くほど彼の描く平成について覚えていないこと多かった。
例えば〇〇年に、小泉純一郎ががこう言っていた、みたいな事が書かれていたが本当に薄っすらとしか覚えていない。
振り返ってみればあの国民からの人気ぶりはどう考えてもおかしいが、当時は気づきもしなかった。
そう、この人のエッセイは思ったより政治的発言というか、政治家に対する発言が多い。
全然おもしろエッセイじゃなかった。
タイトルとペンネームに騙されては行けなかったのだ。
一本筋が通っているというか、ちゃんと物を考えている人のようで、おもしろエッセイではないけど、もちろん読んで良かったと思っている。
もうそうなるとただただエンタメのために本を消費している私としては、頭の下がる気持ちにもなってくるのだ。
タイトルの「なんかいやな感じ」は高見順の「いやな感じ」のオマージュらしいが、企画の段階では「橋本治」が上巻のみ書いて絶筆となった「近未来としての平成」の続きだったらしいのだ。
ずっとそこにあって、続いてきたもの。その漠然とした感覚を直視してみようと思った。
1982年生まれ。物心ついてから今まで、遠くて起きていたこと。近くで起きていたこと。
その記憶を重ねて、「社会」を語るためにも、まずは「感じ」を考えてみようと思った。〈今回の本は、自分の体験や思索を振り返るようにして、この社会に染み込んでいる「いやな感じ」はどういう蓄積物なのかを見つめようとした記録である。…同世代が読めば通じやすい話も出てくるが、特に世代論ではない。主題は史実や思い出ではなく「感じ」である。〉ーー「まえがき」より
【目次】
・なんか不穏
・特有のウザさ
・ケジメとは
・土埃
・まだずっと未来を見ている
・遠くで起きていた
・近くで起きていた
・坂の上の家
・見抜かれちゃうぞ
・選ばれるとは
・管理されたい
・学ばないほうが
・つながりたくない
・自転車だから
・Have Passion !
・調整さん
・ハイタッチ
・ナンバーワン・オンリーワン
・記憶とは現在
・自分の責任だよね
・社会の歩み方
・自分語り
・You
・どげんかせんと
・お前らにはわからないだろうな
・ガールズストリート
・私を信じて
・震災の日、東京で
・決めるのは自分
・人権を消そうとする
・悪口禁止
・いやな感じ
次に読みたい本
久しぶりに橋本治の名前を聞き「ほとんど読めなかった人だ~」と思い検索。
ほとんど読めなかったけど、このイラストはもしかして高野文子じゃないだろうか。
よ、読みたい!