神吉 拓郎の「私生活」をよんだ。
1983年の直木賞受賞作だ。この表紙の猫のイラストが気になって手に取ったが、普段であれば読まないジャンルの本だった。
なにせ40年くらい前の話なのである。
だから、戦争を知っている人たちが現役で、その頃の価値観や生活様式が丁寧に描かれている。
他人の私生活を知るというテーマなので、割と生々しい話になりそうなところを、絶妙に上品転じているように感じた。流石名人芸と書かれるだけある。
17の短編集ですべて「大人の男」がちょっぴり日常からはみ出そうとしたり、他人の生活を覗いてうへぇって気分になったりする話。
正直、面白いのかどうかわかりかねます、というものもあったし、40年前も今も人って変わらないな、と思わされたり。
中でも「危険水域」(だったかな?今日聞いたのにすでに記憶がない)というタイトルの話は良かった。短編映画にしたらさぞや良かろうと思う。
会社の金を持ち逃げしようと一度は企てた男が、結局3時間ばかり色々「自分が蒸発すること」について妄想した上で結局、何もせず戻って来る話。
最初は「この金は、会社の裏金的なもので」「なくなった場合公にできないであろう」と等々と心のなかで述べる。それからこの金をもって最近出会った小料理屋の女のところに「すべてを捨てて」行ってしまおう。と考える。
川の水量が上がり徐々に危険水域から水が溢れ出すように、思いが膨らんでいくが結局ギリギリのところで男は踏みとどまる。
それは、誰にとってよかったことなのかわからない。
小説なら、ここは持ち逃げしてほしいところだが、諦めるところがすごいリアリティでもある。
それにしても久しぶりに「蒸発」という言葉を聞いた。
どこに言っても防犯カメラとマイナンバーカードが必要な今でも、お金さえあれば蒸発ってうまくできるのかな?
とりあえず、家を借りるのも一苦労だろうなぁ、あ、住み込みで旅館の仲居、これだな。と真剣に妄想。
「都会生活の哀愁を、巧みに切りとってみせた」と高く評価された第90回直木賞受賞の短篇集である。この世の中、どこの誰にも一枚めくれば、あやしげな私生活があるものだ。人それぞれにおなじ悩みも濃くまた淡く……いささか暗い人生の哀歓と心理の機微を、登場人物それぞれの何気ない会話のうまさと洗練の筆で、さりげなくしかし奥深く捉えた名人芸。「つぎの急行」「たねなし」「丘の上の白い家」「ご利用」「六日の菊」など17の「私生活」を描く。
次に読みたい本
山中與隆 (著), 山中伶子 (編集) 形式: Kindle版
若い時から自分でも説明できない衝動が突然起こる。車に乗っている時妻を置き去りにして走り去り、蒸発してしまいたくなるのである。
この自費出版がすごい、というムックがあったらランクインしそう(読んでないけど)
夫が書いた「蒸発の衝動」を妻が編集(ってこと?!)となって面白すぎる(読んでないけど)
置いていくなーーー!!!