安野貴博の「松岡まどか、起業します AIスタートアップ戦記」を読んだ。
いわゆるお仕事小説と言われるものだが、作者はSF作家でもあるらしく、AIを使った起業スタートアップの中身がまず近未来感たっぷり。
なんの取り柄もないように見える女子大生まどかだが、大手企業に内定が決まっていた。
彼女は高校生の頃から自分でチューンアップしたAIに入試問題を回答させたのだ。
卒業直前で、入社試験の規約違反から内定取り消しを食らってしまう。
その勢いで出資してくれるという怪しい人の怪しい誘いに引っかかり、起業して利益を出さなければ、莫大な借金を背負う契約を結んでしまう。
働くのはそんなに好きじゃないまどかが、死にものぐるいで起業していく様子が描かれるのだ。
起業は簡単だ、みたいな本はよく見るし何より現実の仕事がキツすぎで、ここでは無いどこか、という気持ちで起業に憧れていた時期もあったけど、この本を読む限りとてつもないプレッシャーで、全く真似したくなくなった。
事業内容を決め、従業員を雇い、株主と交渉しと、際限なくやることがあるのだ。
好きな仕事をするだけではダメなのだ。
やりたいことや実現したいこと、それはただの夢の種で、起業というのはその種を蒔いて育てる行為なのだ。
この本を読めば起業が分かる、という類の話ではない。
むしろ、ビジョンがないと辛いとかスタートアップの社長は鬱になりやすいとかいう、ある意味現実をしっかり描いた物語。
ちなみに、私がいちばん面白く読んだのはまどかが育てているAIの話。
彼氏の役割を与えた政宗にお小遣いを与えて、政宗から予期せぬプレゼントを贈るように設定していたり、今の技術でギリギリ出来そうな範囲で夢が膨らむ。
最後、起業のパートナーの先輩(故人)の録音音声ログを学習させ、彼女のように考え話すようにチューンナップしたAIを作り上げる部分はかなり興味深い。
これは、技術的に可能になったら必ずややる人が出てくるだろう。
あとは、倫理観だけの問題で近い将来必ず法整備が進むはずだ。
むしろ、インタラクティブな遺書なのでは?とあってそれが面白かった。
私も自分の発言ログを溜めて、来るべき未来に備えたい。
AIエンジニア&起業家にしてSF作家が描く、令和最強のお仕事小説!
日本有数の大企業・リクディード社のインターン生だった女子大生の松岡まどかはある日突然、内定の取り消しを言い渡される。さらに邪悪な起業スカウトに騙されて、1年以内に時価総額10億円の会社をスタートアップで作れなければ、自身が多額の借金を背負うことに。万策尽きたかに思われたが、リクディード社で彼女の教育役だった三戸部歩が松岡へ協力を申し出る。実は松岡にはAI技術の稀有な才能があり、三戸部はその才覚が業界を変革することに賭けたのだった――たったふたりから幕を開ける、AIスタートアップお仕事小説!
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