面白かったーーー!さすが。
物語は独立した5つの話からなる短編集だが、すべての話には「コロナ禍、パンデミックで人生を狂わせられた人」というテーマが根底にあって、タイトルのツミデミックは「罪✕パンデミック」の造語みたい。
数年前のことなのに驚くくらい昔の話に感じる、あの鬱屈した雰囲気。
自宅待機を命じられたり、接客業が軒並み経営難になったのはまだしも、マスクをせずに飛行機に乗っただけで飛行機が飛ばず、全国的なニュースになったり、お店で飲食をしただけでネットで炎上するような状況だった。今考えるとあの時は集団でどうかしていた。国中の人がマスクをしていないだけで重罪だと断じる空気があった。
振り返ってみると、なんとバカバカしい時代だったんだろう。大勢の意見が正しいと限らないのに何の疑問すら持てていなかったことに反省。
つらつらと思い返し、少し背筋がゾッとしたよ。
前作の「スモールワールズ」もおもしろかったけど、今回の本はまた一段とストーリーテラーっぷりがあがっているんではないでしょうか。。
収録作品
「違う羽の鳥」
大阪出身の青年が、客引き中に逆ナン?とおもったら、自殺したはずの元同級生だった。どうしてこんなことが起こるのか?彼女が彼を飲みに誘った理由がゾゾゾ。
第一話目がかなり好みでノックアウト気味!
「ロマンス☆」
育児ストレスとコロナ在宅ストレスで大変な目にあう子育て中の主婦の話。
まちで見かけたイケメンデリバリーの配達員が忘れられなくて、緊縮財政中に夫に隠れてデリバリーを頼みまくる。
読みながらどう転んでも幸せな結末にはならなそうな予感にハラハラ。最後は想像以上のイヤな気分になる結末。タイトルについている☆に騙されるな。~
「憐光」
15年前に豪雨被害で行方不明になった少女の白骨遺体が発見される話。
発見された途端に「幽靈として」意識を覚醒する主人公は、自分が死んだ理由が思い出せずとりあえず実家へ向かう。たまたま親友と先生が線香を上げに来ていてその二人について回るが、二人の会話から段々と記憶のベールがめくられてゆく。
意識を取り戻したときは「自分が死ぬときに誰かを恨んでいなくてよかった、リングの貞子みたいにならなくてよかった」と思っていたのに、真相は彼女にとっては厳しいものだった。
辛い過去がわかっても彼女誰かを恨もうとは思わなかったところが尊いな。
「特別な縁故者」
ガラッと変わって、ちょっといい話。
コロナで職を失った元料理人が、いつまでも働けずにいたところに、ひょんな縁で近所のお金持ちの独居老人に手料理を作るバイトのようなことをするようになる。
大枚のタンス預金があることを知り、かなり下心がありつつも、純粋に相当な食通の老人に料理の腕を認められたことが嬉しくて通う様になるのだが、借金の申込みをしたときに一喝されほうほうのていで逃げ帰る。
だが、ある日じいさんの家に怪しい男たちが侵入するのを見つけて・・・
最初はホントにだめな旦那だった彼が犯罪を犯す側にならなくて本当に良かった。
「祝福の歌」
50代になった達郎が主人公。娘が高校生で妊娠したので家族が混乱している。
ある日、高齢の母が階段からおちて怪我をしたのだが、そのときに自分の出生の秘密を知ってしう。なんと50年も母と思っていた人と自分が血がつながっていなかったのだ。混乱のピークに達していた達郎に育ての母がわたしたものは、産みの母から贈られた手紙と「祝福の歌」のテープ。愛されて生まれて愛されて育ったことを知ることができて、娘の妊娠のことは置いといて、ハッピーエンド。
「さざなみドライブ」
ネットで行われた「集団自殺」と募る呼びかけに応じた男女5人が人気のない郊外の駅で落ち合うところから物語ははじまります。
なんとなく、みな自分が死にたい理由を語り始めるのだが、皆「自分には死ぬ理由があるが、他人にはそんな理由で死ぬなんておかしい」なんて、矛盾したことを言い出す。
車内で話すうち、やはり今日はやめようということに落ち着くのだが実はこの中に悪意の塊の犯罪者がまぎれていたのだった。
なんというか、最後はみな生きることを選んだことで死にたいくらい辛い気持ちがいつの間にか、辛かった記憶になり仄かな希望が感じられる作品。
大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗ったが――「違う羽の鳥」 失業中で家に籠もりがちな恭一。ある日小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣の一軒家に住む老人にもらったというそれをたばこ代に使ってしまった恭一だが――「特別縁故者」 鮮烈なる“犯罪”小説全6話
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